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管理・傷み

近所の人に空き家を見てもらうときの
頼み方と限界

国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)によると、主な管理者が「自治会・近所の人」の空き家は0.9%でした。所有者または同居している親族が76.8%、同居していない親族が13.5%で、近所の人に管理を任せている例は少数です。見回りを頼んで引き受けてもらった場合は民法上の準委任にあたりうると考えられ(民法第656条)、その場合、引き受けた人は善良な管理者の注意をもって見回る義務を負います(民法第644条)。お礼は取り決めが無ければ請求できない定めで(民法第648条第1項)、引き受けた人が見回りのために負った費用や、自分に過失なく受けた損害は、頼んだ所有者に請求できます(民法第650条第1項・第3項)。委任はどちらからでもいつでも解除できます(民法第651条第1項)。頼むのは外回りの目視と異変の連絡までに絞り、範囲・頻度・連絡方法・お礼を先に決めるのが、引き受ける側の負担が小さい頼み方です。条文と調査で、頼み方と限界を整理しました。

近所の人が管理している空き家の割合

主な管理者割合
所有者または所有者と同居している親族76.8%
所有者と同居していない親族13.5%
不動産業者、建築会社、管理専門業者など3.8%
自治会・近所の人0.9%
その他の人1.3%
誰も管理していない3.8%

出典:国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」図表4-63(総数)

国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」は、令和5年住宅・土地統計調査で現住居以外に空き家を所有していると回答した世帯から抽出した世帯を対象にした調査です。 主な管理者が自治会・近所の人である空き家は0.9%で、空き家の種類別に見ても自治会・近所の人の割合は0.8〜0.9%でした(図表4-64)。 空き家の管理は、所有者と親族がほとんどを担っています。

出典:国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」図表4-63・4-64

所有世帯の居住地からの所要時間は「徒歩圏内」35.8%、「車・電車などで1時間以内」40.8%で、車・電車などで3時間超の空き家は10.4%でした(図表4-142)。 近所の人に頼みたいと考えるのは、自分では通えない遠方の所有者だと考えられます。 管理をする上での課題として「管理を頼める人や業者がいない」を挙げた世帯は5.9%でした(図表4-79、複数回答)。

出典:国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」図表4-79・4-142

頼むと法律上どうなるか

見回りを頼む約束と準委任

民法第656条

この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

民法第644条

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

出典:民法(明治29年法律第89号)第644条・第656条

空き家の見回りや郵便物の整理は「法律行為でない事務」にあたり、頼んで引き受けてもらう約束が成り立てば、民法第656条により委任の規定が準用されると考えられます(準委任)。 ご近所どうしの好意の頼みごとが、法的な約束として成り立つかどうかは、頼んだ内容や取り決めの具体性などの個別の事情で判断されます。 準委任にあたる場合、引き受けた近所の人は、民法第644条により、善良な管理者の注意をもって見回る義務を負います。 条文は、お礼を払うかどうかでこの注意の程度を分けていません。 好意で引き受けた人にも、条文上は同じ注意の義務がかかることになります。頼む側が知っておきたい点です。

報告とお礼

民法第645条

受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

民法第648条第1項

受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。

出典:民法第645条・第648条第1項

民法第645条により、頼んだ側が求めれば、引き受けた人は見回りの状況を報告します。 報酬は、民法第648条第1項により、特約がなければ請求できません。 お礼を渡すつもりがある場合は、額と渡し方を最初に決めておくと、あとで双方の受け止め方がずれることを防げます。

頼まれずに手を出した場合

民法第697条第1項

義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。

民法第702条第1項

管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。

出典:民法第697条第1項・第702条第1項・第3項

頼んでいない近所の人が、開いていた窓を閉めた、倒れた物を起こしたという場合は、民法第697条第1項の事務管理にあたりえます。 事務管理にあたる場合、その人が本人のために有益な費用を支出したときは、民法第702条第1項により、所有者に償還を請求できます。 所有者の意思に反して行われた場合は、所有者が現に利益を受けている限度に限られます(民法第702条第3項)。 頼んでいなくても、近所の人が気づいて動いてくれた場合の費用は所有者の負担になりうるため、連絡先を伝えておくことが、近所の人にとっても所有者にとっても手間を減らします。

頼み方。先に決めておく6つのこと

調査で管理の内容として多いのは、外回りの清掃・草取り・剪定(79.5%)、戸締まりの確認(74.9%)、住宅の通風・換気(66.9%)でした(図表4-65、複数回答)。 このうち換気や室内の確認は家の中に入る作業で、鍵を預けることになります。 近所の人に頼む場合は、外から見て分かることに絞ると、引き受ける側の負担と責任が小さくなると考えられます。

出典:国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」図表4-65

決めておくこと決め方の例
見る範囲道路から見える外回り(窓・雨戸・塀・庭木・郵便受け)に限る。家の中には入らない
頻度「通りがかりに気づいたら」の程度にとどめるか、月に1回などと決めるか
異変の連絡先所有者の電話番号と、所有者がつかまらないときの親族の連絡先
報告の方法異変があったときだけ連絡する。写真を送ってもらうかどうか
お礼渡すかどうか、渡すなら額と時期
やめ方引き受けた人がいつでも断れることを、最初に伝えておく

頼むときは、決めた内容を紙やメッセージで渡しておくと、引き受けた側も頼まれた範囲を確かめられます。 台風や大雪のあとなど、見てほしい時期がはっきりしている場合は、その時期も伝えておきます。 台風の前に所有者自身がしておくことは台風の前に、空き家でやっておくことにまとめています。

近所の人に頼むことの限界

いつでも断られうる

民法第651条第1項

委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

出典:民法第651条第1項・第2項

民法第651条第1項により、委任はどちらの側からもいつでも解除できます。準委任にも準用されます(民法第656条)。 相手に不利な時期に解除した側は、やむを得ない事由があったときを除き、相手の損害を賠償する定めもあります(民法第651条第2項)。 近所の人の体調や家の事情が変われば、見回りはそこで終わります。 近所の人に頼む形は、引き受けた人の好意と事情に支えられているため、長く続く前提で組み立てにくいと考えられます。

頼んだ側が負う費用と損害

民法第650条第1項

受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

民法第650条第3項

受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。

出典:民法第650条第1項・第3項

準委任にあたる場合、民法第650条第1項により、引き受けた人が見回りに必要な費用を支出したときは、頼んだ所有者に償還を請求できます。 民法第650条第3項により、見回りのために自分に過失なく損害を受けたときは、所有者に賠償を請求できます。 見回りの途中で近所の人がけがをした場合、その損害は頼んだ所有者の負担になりうるということです。 屋根に上がる、木を切るといった危険を伴う作業を頼まないほうがよいのは、引き受ける側の安全のためであると同時に、この定めがあるためでもあります。

所有者の責務は残る

空家法第5条は、空き家の所有者又は管理者に、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めることを求めています。 近所の人に見回りを頼んでも、修繕や草刈り、傷んだ塀の手当てを決めて費用を出すのは所有者です。 近所の人が引き受けられるのは、異変に気づいて知らせるところまでと考えられます。 管理をする上での課題では「管理の作業が大変」が31.7%、「管理費用の負担が大きい」が22.5%、「遠方に住んでいるので往訪が困難」が21.6%でした(図表4-79、複数回答)。 作業の負担そのものを近所の人に移すことは難しく、見回りを超える作業は、親族か業者に頼む形になります。

出典:空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)第5条、国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」図表4-79

親族・業者に頼む場合を含めた手段の比較は遠方で空き家の管理ができない。選べる手段の一覧に、近所から苦情が来た場合の対応は空き家のことで近所から苦情が来た。まず何をするかにまとめています。

調査結果のまとめ

近所の人に空き家を見てもらう場合は、外から見える範囲の目視と異変の連絡に絞り、範囲・頻度・連絡先・報告の方法・お礼・やめ方の6つを先に決めるのが頼み方の要点です。 近所の人に任せている空き家は全体の0.9%で、条文上もいつでも解除できる形です。 見回りを超える作業と、空き家の管理に努める責務は、所有者の側に残ります。

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根拠にした資料
国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)第1章、図表4-63・4-64・4-65・4-79・4-142
民法(明治29年法律第89号)第644条・第645条・第648条第1項・第650条第1項・第3項・第651条第1項・第2項・第656条・第697条第1項・第702条第1項・第3項
空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)第5条
調査の割合は不詳を除いて集計された値で、主な管理者と所要時間は空き家の戸数、管理の内容は管理者がいる空き家、課題は空き家を所有する世帯について集計されています。条文は e-Gov 法令検索で確認した現行法です。