相続土地国庫帰属制度は、
空き家のある土地に使えるのか
空き家の
建物が建ったままでは使えません。相続土地国庫帰属法第2条第3項は、承認申請をすることができない土地を列挙しており、その第1号が「建物の存する土地」です。空き家を残したまま申請することはできず、申請しても第4条第1項第2号により却下されます。使うには先に取り壊すことになり、そこで別の負担が出ます。条文にあたって、使える場面と使えない場面を整理しました。
どういう制度か
相続で取得した土地を、国庫に帰属させる
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)は、 所有者不明土地の発生を抑えることを目的として、 相続等により土地の所有権または共有持分を取得した者がその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を設けたものです(同法第1条)。
申請の相手は法務大臣です。同法第2条第1項は、相続等によりその土地の所有権の全部または一部を取得した者に限り、 国庫に帰属させることについての承認を申請できると定めています。
出典:相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)第1条・第2条第1項
買って手に入れた土地は、この制度の対象ではありません。 対象は相続または相続人に対する遺贈で取得した土地です。
共有の土地は、全員で申請する
同法第2条第2項は、土地が数人の共有に属する場合、承認申請は共有者の全員が共同して行うときに限りできると定めています。 そのうえで、共有持分の全部を相続等以外の原因で取得した共有者であっても、 相続等により持分を取得した共有者と共同すれば申請できるとしています。
出典:同法第2条第2項
兄弟で共有している実家の土地では、1人でも欠けると申請できません。 共有の同意が要るという点は、売却や取り壊しと同じ構造です。
建物があると、申請そのものができない
条文が列挙している5つ
申請できない土地は、条文に列挙されています。
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律第2条第3項
承認申請は、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない。一建物の存する土地二担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地三通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
出典:同法第2条第3項第1号から第3号。第4号は土壌汚染、第5号は境界が明らかでない土地などを定めています
第1号が「建物の存する土地」です。 条文は建物の状態を問うていません。住める家か、傷んだ家か、登記があるかにかかわらず、 建物が存在していれば、その土地について申請はできません。
第2号の「担保権」は抵当権などを指します。住宅ローンが残ったままの土地も、この号に当たります。 第5号は境界の争いがある土地です。条文は「境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地」と書いており、隣地との間で境界に争いがある土地は、ここで止まります。測量が済んでいることを条文が求めているわけではありません。
申請しても却下される
同法第4条第1項第2号は、承認申請が第2条第3項の規定に違反するときは、 法務大臣が承認申請を却下しなければならないと定めています。 却下したときは、遅滞なくその旨を承認申請者に通知するとされています(同条第2項)。
出典:同法第4条
「とりあえず出してみる」が成り立たない造りです。 納めた手数料の扱いについて、法は却下の場合の返還を定めていません。 手数料の額は政令に委ねられており、当社はその政令を原典として持っていないため、この記事では額を示しません。
申請できても、承認されないことがある
承認されない土地の要件
同法第5条第1項は、申請に係る土地が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときに承認をしなければならない、 という書き方をしています。1つでも当たれば承認されません。
| 号 | 条文が挙げている土地 |
|---|---|
| 1 | 崖がある土地のうち、通常の管理に当たり過分の費用または労力を要するもの |
| 2 | 通常の管理または処分を阻害する工作物、車両または樹木その他の有体物が地上に存する土地 |
| 3 | 除去しなければ通常の管理または処分ができない有体物が地下に存する土地 |
| 4 | 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理または処分ができない土地として政令で定めるもの |
| 5 | 通常の管理または処分をするに当たり過分の費用または労力を要する土地として政令で定めるもの |
出典:同法第5条第1項各号。崖の基準および第4号・第5号の内容は政令に委ねられています
空き家を取り壊した土地で問題になりやすいのは第2号と第3号です。 取り壊したあとに残った基礎・浄化槽・井戸・擁壁・庭木は、地上または地下の有体物にあたりうると考えられます。 建物を壊せば要件をすべて満たす、という話ではありません。
承認は一筆ごと
同法第5条第2項は、承認を土地の一筆ごとに行うと定めています。 複数の筆にまたがる敷地では、筆ごとに判断されます。
また法務大臣は、承認に係る審査のため必要があると認めるときは、 職員に実地調査をさせることができます(同法第6条)。 書面だけで終わる手続きではありません。
出典:同法第5条第2項・第6条
承認されたあとに起きること
負担金を納めて、はじめて国庫に移る
同法第10条第1項は、承認があったときに、 国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定めるところにより算定した額の金銭を 負担金として納付しなければならないと定めています。
通知を受けた日から30日以内に納付しないときは、承認はその効力を失います(同条第3項)。 所有権が国庫に移るのは、負担金を納付した時です(同法第11条第1項)。
出典:同法第10条・第11条第1項。負担金の算定方法は政令に委ねられており、この記事では額を示しません
あとから取り消されることがある
同法第13条第1項は、偽りその他不正の手段により承認を受けたことが判明したときは、 法務大臣が承認を取り消すことができると定めています。
同法第14条は、承認の時に第2条第3項各号または第5条第1項各号のいずれかに該当する事由があったことで国に損害が生じた場合において、 承認を受けた者がその事由を知りながら告げずに承認を受けた者であるときは、 国に対して損害を賠償する責任を負うとしています。
出典:同法第13条第1項・第14条
地下に何が埋まっているか分からないまま申請するのは、この条の射程に入る可能性があります。 該当するかどうかの判断は事案によります。本記事は条文の説明であり、個別の事案についての判断ではありません。
空き家のある土地で使おうとすると
先に取り壊すことになる
建物の存する土地は申請できない以上、この制度を使う道筋は取り壊しが先になります。 取り壊しには費用がかかり、そのあとで第5条第1項の審査が待っています。
国土交通省が2025年8月に公表した「令和6年空き家所有者実態調査結果」では、 今後5年程度は空き家として所有しておく意向の世帯が挙げた理由のうち、 解体費用をかけたくないが47.3%、さら地にしても使い道がないが34.8%、 取り壊すと固定資産税が高くなるが28.2%でした。
出典:国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表3-45(複数回答)
取り壊すと、土地の税は上がる
地方税法第349条の3の2は、住宅用地の課税標準を価格の3分の1とし、 200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)については価格の6分の1と定めています。
建物を取り壊すとこの特例が外れます。200平方メートル以下の部分は計算上およそ6倍、これを超える部分はおよそ3倍になります。倍率は一律ではありません。 申請から承認・負担金の納付までの間も、土地は自分の名義のままです。 解体費用と、その間の税の負担を勘定に入れる必要があります。
出典:地方税法(昭和25年法律第226号)第349条の3の2。税額は概算であり、実際の額は市区町村にご確認ください
制度そのものは、建物がなく、担保も争いもなく、地上にも地下にも邪魔なものがない土地を想定した造りです。 空き家が建っている土地は、その入口の手前にあります。
調査結果のまとめ
- 建物の存する土地については、承認申請をすることができません(相続土地国庫帰属法第2条第3項第1号)。建物の状態や登記の有無は条文上問われていません
- 担保権が設定されている土地、境界が明らかでない土地も申請できません(同項第2号・第5号)
- 申請が第2条第3項に違反するときは、法務大臣は却下しなければなりません(同法第4条第1項第2号)
- 申請できても、地上または地下に通常の管理や処分を阻害する有体物がある土地は承認されません(同法第5条第1項第2号・第3号)。承認は一筆ごとです(同条第2項)
- 負担金を納付した時に、所有権が国庫に帰属します(同法第10条・第11条第1項)。通知から30日以内に納付しないと承認は失効します
- 該当事由を知りながら告げずに承認を受けた者は、国に対する損害賠償の責任を負います(同法第14条)
- 空き家として所有しておく理由は、解体費用をかけたくないが47.3%、さら地にしても使い道がないが34.8%、取り壊すと固定資産税が高くなるが28.2%でした(図表3-45)
- 取り壊すと住宅用地の特例が外れ、土地の固定資産税は200平方メートル以下の部分で計算上およそ6倍、これを超える部分でおよそ3倍になります(地方税法第349条の3の2)
「空き家を国に引き取ってもらう制度」という理解は、条文とは一致しません。 引き取りの対象は土地であって、建物ではありません。 取り壊す判断をしたあとに、はじめて選択肢として現れる制度だと考えられます。 手数料と負担金の額、崖や有体物の基準は政令に委ねられているため、 実際に使えるかどうかは法務局にご確認ください。
誰も住まないご実家を、毎月みまもります
貸すか、売るか、持ち続けるか。決めるまでの間も空き家は傷みます。
担当が月1回訪問して状況を確認し、写真つきの報告書でお送りします。月2,750円(税込)から、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県で承っています。
お申し込みはネットで完結します。所要3分ほどです。
根拠にした資料
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)第1条・第2条・第4条・第5条・第6条・第10条・第11条・第13条・第14条
地方税法(昭和25年法律第226号)第349条の3の2
国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表3-45
条文は2026年9月15日に e-Gov 法令検索で確認しました。承認申請の手数料の額、負担金の額と算定方法、崖の基準、第5条第1項第4号・第5号の内容は政令に委ねられており、その政令を原典として持っていないため、この記事では額も基準も示していません。解体費用の相場も同じ理由で扱っていません。実際に申請できるかどうかは、法務局または司法書士・土地家屋調査士にご確認ください。