一人っ子が実家を相続するときに、
先に決めておくこと
先に
相続人が自分だけなら、遺産分割協議は要りません。民法第898条は、相続人が数人あるときに相続財産が共有になると定めています。話し合う相手がいない代わりに、決める人も自分だけになります。3か月(民法第915条第1項)と3年(不動産登記法第76条の2第1項)という2つの期限は、人数によって変わりません。国土交通省の調査では、空き家の84.6%が1人の所有でした。先に決めておくことを条文と統計にあたって整理しました。
一人っ子で変わること、変わらないこと
遺産分割協議が要らない
共有をめぐる条文は、相続人が複数いることを前提にしています。
民法第898条第1項
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
出典:民法(明治29年法律第89号)第898条第1項
相続人が1人であれば、この条が想定する共有は生じません。 誰の同意も要らず、印鑑をもらいに回る必要もありません。 複数で持った場合に何が起きるかは 実家を兄弟の共有名義にすると、あとで何が起きるかにまとめています。
国土交通省が2025年8月に公表した「令和6年空き家所有者実態調査結果」によると、 空き家の所有者の数は1人(単独所有)が84.6%、2人以上(共有)が14.0%でした。
出典:国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-31
期限と義務は、人数で変わらない
分け方を決める相手がいないことと、手続きが減ることは別です。次の3つは人数にかかわらず来ます。
| やること | 期限 | 条文 |
|---|---|---|
| 承認か放棄かを決める | 知った時から3か月 | 民法第915条第1項 |
| 相続登記を申請する | 知った日から3年 | 不動産登記法第76条の2第1項 |
| 家を傷ませない | 期限はない | ― |
争いが起きないぶん、気づかないうちに期限だけが過ぎるという形になりやすいと考えられます。 止めてくれる人も、急かしてくれる人もいません。
3か月で、承認か放棄かを決める
期間の起算点は、死亡の日ではない
民法第915条第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
出典:民法(明治29年法律第89号)第915条第1項
この期間内に、相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認をしたものとみなされます(同法第921条第1号)。 家の片付けを急ぐと、放棄という選択肢が先に消えることがあります。
放棄すると、次の順位に移る
一人っ子が放棄しても、家が消えるわけではありません。民法第889条第1項は、 第887条により相続人となるべき者がない場合に、直系尊属、次いで兄弟姉妹の順で相続人となると定めています。
出典:民法(明治29年法律第89号)第887条・第889条第1項
つまり自分が放棄すると、祖父母や、親の兄弟姉妹(自分から見た叔父・叔母)に話が移ります。 放棄は自分の手を離す手続きであって、話を終わらせる手続きではありません。 連絡なしに進めると、思わぬ相手に通知が届くことになります。
誰も相続しないと、相続財産法人になる
次の順位の人もいない、または全員が放棄した場合について、民法第951条は 「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする」と定めています。 同法第952条第1項は、この場合に家庭裁判所が利害関係人または検察官の請求によって 相続財産の清算人を選任しなければならないとしています。
出典:民法(明治29年法律第89号)第951条・第952条第1項
清算人の選任には申立てが要り、家が自動的に片づく仕組みではないと考えられます。 また、放棄の時にその財産を現に占有していた者には保存の義務が残ります(同法第940条第1項)。
3年で、登記する
申請の義務は、1人でも変わらない
不動産登記法第76条の2第1項
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2第1項
相続による権利の移転の登記は、同法第63条第2項により登記権利者が単独で申請できます。 相手の協力を待つ必要がないので、一人っ子の場合は止まる要素が少ない手続きです。
怠ると過料の定めがある
同法第164条第1項は、第76条の2第1項などの規定による申請をすべき義務がある者が 正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処すると定めています。
出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第164条第1項
同じ調査では、所有者が分かっている空き家のうち、 登記と名義変更のいずれも行っていないものが14.1%ありました。
出典:同調査 図表3-17。相続登記が義務になった令和6年4月1日より前の状況
自分のあとを、先に決めておく
相続人がいないと、最後は国庫に入る
一人っ子で、自分に子がいない場合、家を引き継ぐ人が自分の代でいなくなることがあります。 その場合の流れは条文に書かれています。
| 段階 | 条文 | 定めていること |
|---|---|---|
| 1 | 民法第951条 | 相続人のあることが明らかでないとき、相続財産は法人となる |
| 2 | 同法第952条 | 家庭裁判所が相続財産の清算人を選任し、公告する。期間は6か月を下れない |
| 3 | 同法第958条の2 | 生計を同じくしていた者、療養看護に努めた者などの請求により、財産の全部または一部を与えることができる |
| 4 | 同法第959条 | 処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する |
出典:民法(明治29年法律第89号)第951条・第952条・第958条の2・第959条
第958条の2の分与は家庭裁判所の判断によるもので、請求すれば通るものではありません。 請求の期間も、第952条第2項の公告の期間が満了してから3か月以内と定められています。
決めておける手段は、方式が決まっている
引き継いでほしい相手がいるなら、遺言という手段があります。 民法第960条は「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と定め、 同法第967条は普通の方式を自筆証書・公正証書・秘密証書の3つとしています。
出典:民法(明治29年法律第89号)第960条・第967条
方式を外れた書き置きは、遺言としては扱われません。 どの方式で作るか、内容が有効かの判断は、公証役場または弁護士・司法書士にご確認ください。 本記事は条文の説明であり、個別の事案についての判断ではありません。
調査結果のまとめ
- 相続人が1人なら、遺産分割協議は要りません。民法第898条第1項が定める共有は、相続人が数人あるときのものです
- 空き家の所有者の数は1人(単独所有)が84.6%、2人以上(共有)が14.0%でした(図表4-31)
- 承認か放棄かを決める期間は、知った時から3か月です(民法第915条第1項)。期間内に処分をすると単純承認とみなされます(同法第921条第1号)
- 放棄すると、直系尊属、次いで兄弟姉妹に移ります(同法第889条第1項)。放棄は話を終わらせる手続きではありません
- 相続登記の申請は、知った日から3年以内です(不動産登記法第76条の2第1項)。相続による登記は単独で申請できます(同法第63条第2項)
- 正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の定めがあります(同法第164条第1項)。登記と名義変更のいずれも行っていない空き家は14.1%でした(図表3-17)
- 相続人がいないと、清算を経て残った財産は国庫に帰属します(民法第951条・第952条・第958条の2・第959条)
一人っ子の相続で難しいのは、分け方ではなく決める順番です。 3か月と3年の2つの期限をまず押さえ、そのうえで家をどうするかを考える。 相談する相手がいないぶん、期限の側から逆算しておくほうが進めやすいと考えられます。
誰も住まないご実家を、毎月みまもります
貸すか、売るか、持ち続けるか。決めるまでの間も空き家は傷みます。
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根拠にした資料
民法(明治29年法律第89号)第887条・第889条・第898条・第915条・第921条・第940条・第951条・第952条・第958条の2・第959条・第960条・第967条
不動産登記法(平成16年法律第123号)第63条第2項・第76条の2第1項・第164条第1項
国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表3-17・図表4-31
条文は2026年9月15日に e-Gov 法令検索で確認しました。相続税の額、二次相続の見通し、特別縁故者への分与が認められるかどうかは、原典で裏を取れる形にできなかったためこの記事では扱っていません。税額は税務署または税理士に、手続きは家庭裁判所・法務局または弁護士・司法書士にご確認ください。