相続した実家を、売る・貸す・持ち続ける。
何を基準に決めるか
国の調査では、空き家の58%は相続で取得されています。そして相続した人の77%は、相続の前に何の対策もしていません。つまり多くの人が、準備のないまま家を持つことになります。3つの選択肢には、期限があるもの・戻せるもの・戻せないものが混ざっています。条文と統計にあたって、決めるための材料を並べました。
まず、決めなくてよいことと、決めるべきことを分ける
準備のないまま持つことになる人が多い
国土交通省が2025年8月に公表した「令和6年空き家所有者実態調査結果」によると、 空き家の取得方法は相続が約58%で最も多く、建築時期が1950年以前の家では約79%が相続によるものでした。
そして相続で取得した世帯のうち、相続の前に対策を講じていなかった人は77%です。 講じていた23%の中身も、大半は「被相続人との話し合い」(約17%)でした。
出典:国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)第3章
人が住まなくなった理由も、死亡が約44%、別の住宅への転居が約39%です。 つまり多くの場合、家は「準備して受け取るもの」ではなく、急に手元に来るものです。
先に済ませるのは、判断ではなく手続き
売る・貸す・持ち続けるを決める前に、どれを選んでも必要になることが2つあります。
- 相続登記。2024年4月1日から義務になりました。取得を知った日から3年以内です。過去の相続にも適用されます
- 誰の名義にするかを決める。共有にすると、売るときも貸すときも全員の同意が要ります
この2つを済ませないまま出口だけ考えると、いざ動くときに止まります。 判断を急ぐ前に、手続きを済ませておくほうが早く進みます。
売る:3年の期限がある
3000万円の特別控除には、はっきりした期限がある
相続した家を売るとき、条件を満たせば譲渡所得から3000万円を差し引ける制度があります。 租税特別措置法第35条第3項が定めるもので、期限が2つあります。
| 期限 | 条文が定めている内容 |
|---|---|
| 制度そのものの期限 | 平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡 |
| 個別の期限 | 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
出典:租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第35条第3項。2026年9月7日に条文を確認。
たとえば2024年5月に相続が開始した場合、2027年12月31日までが個別の期限です。 迷っているうちに過ぎます。
家の側にも条件がある
同条第4項は、対象になる家屋(被相続人居住用家屋)の要件を3つ定めています。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 建物の区分所有等に関する法律第1条に該当する建物でないこと(分譲マンションは対象外)
- 相続の開始の直前において、被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと
さらに、売るときには耐震基準に適合させるか、家屋を取り壊す必要があります。 売買の対価が1億円を超える場合は対象外です。
この制度は使えないことのほうが多い
「昭和56年5月31日以前の建築」「一人暮らしだった」「マンションでない」の3つが同時に必要です。親が施設に入る前に同居していた家族がいれば、それだけで外れます。使えるかどうかは、必ず税務署または税理士にご確認ください。ここに書いたのは条文の内容であって、個別の判定ではありません。
貸す:戻ってこられなくなることがある
普通借家で貸すと、簡単には返してもらえない
「とりあえず貸しておく」は、3つの中でいちばん戻しにくい選択です。 通常の賃貸借契約(普通借家)では、貸主から更新を断るには借地借家法の定める正当事由が要ります。 家賃が入る代わりに、自分や家族が住みたくなっても、すぐには戻せません。
期間を区切りたい場合は定期借家という方式があります。 期間が来れば確実に終わりますが、そのぶん借り手が付きにくく、賃料も下がる傾向があります(推察。当社では賃料差の実データを持っていません)。
築年数より、間取りで決まる
当社が全国585自治体の空き家バンクの掲載情報10,954件を集計したところ、 賃貸に出ている空き家の72%は築40年以上で、 賃料は築30年を過ぎるとほとんど下がりませんでした。 築年数よりも間取りのほうが賃料を左右します。
築年数を理由に「うちは貸せない」と決める必要はありません。詳しくは 築50年の空き家は賃貸に出せるのかにまとめています。
持ち続ける:かかり続ける費用の実額
毎年出ていくもの
持ち続けるのは「何もしない」ことではありません。毎年、次の費用が出ます。
| 項目 | 目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 物件による | 建物が建っていれば住宅用地の特例が使える |
| 火災保険 | 住んでいる家より高い | 空き家は一般物件の扱いになることがある |
| 電気・水道の基本料金 | 年1〜2万円程度 | 止めると通水・換気ができなくなる |
| 管理(自分で行く場合) | 交通費と時間 | 遠方だと1回で半日〜1日 |
| 管理(頼む場合) | 月2,750円〜 | 当社の場合。他社は月5,000〜10,000円台が多い |
金額は目安です。固定資産税と保険料は物件ごとに異なります。
更地にすると税は上がる
「使わないなら壊せばいい」と考える前に、税の扱いを確認してください。 地方税法第349条の3の2は、住宅が建っている土地の課税標準を、 小規模住宅用地(200㎡以下の部分)で価格の6分の1、それを超える部分で3分の1と定めています。
建物を壊すとこの特例が外れ、土地の固定資産税は計算上およそ6倍になります。 解体費用に加えて、毎年の税負担が増える点も勘定に入れる必要があります。
出典:地方税法(昭和25年法律第226号)第349条の3の2
3つを同じ軸で並べる
期限・戻せるか・かかる費用
| 売る | 貸す | 持ち続ける | |
|---|---|---|---|
| 期限 | あり(相続から3年) | なし | なし |
| あとで戻せるか | 戻せない | 戻しにくい | いつでも他へ移れる |
| お金の向き | 入る(一度だけ) | 入る(毎月) | 出る(毎年) |
| 最初にかかる手間 | 大きい(片付け・耐震か解体) | 大きい(修繕・募集) | 小さい |
| 家族の合意 | 全員必要 | 全員必要 | 先送りできる |
| 放っておくと | 控除の期限が切れる | — | 傷んで選択肢が減る |
持ち続けるのは、決めないことではない
表を見ると、持ち続けるは唯一「戻せる」選択肢です。 売れば終わり、貸せば期間中は動かせませんが、持っている間は他のどれにも移れます。
ただし条件があります。家が傷めば、売る値も貸す値も下がり、選択肢そのものが減ります。 同じ国交省の調査では、管理の頻度が年に1〜数回まで下がった空き家は 構造上の不具合が生じている割合が24.3%、数年に1回では33.3%でした(月に1回以上では15〜18%)。 これは相関であって因果ではありませんが、手を入れていない家ほど傷んでいるという事実は動きません。
実際に選ばれているのはどれか
いちばん多いのは「持ち続ける」
同じ調査は、今後5年程度の利用意向も聞いています。
| 今後5年程度の意向 | 割合 |
|---|---|
| 空き家として所有しておく | 約32% |
| 売却する | 約20% |
| 別荘やセカンドハウスなどとして利用する | 約19% |
出典:同調査。現在も空き家である住宅 1,034千世帯が対象。
使用目的のない空き家に限ると「空き家として所有しておく」は約41%まで上がります。 持ち続けることは、例外的な選択ではありません。
準備の有無で、選ぶものが変わっている
同じ調査で、相続の前に対策を講じた世帯とそうでない世帯を比べると、次の差が出ています。
| 所有しておく | 売却する | |
|---|---|---|
| 相続前に対策を講じた | 約23% | 約27% |
| 相続前に対策を講じていない | 約35% | 約21% |
出典:同調査。
準備のあった人ほど売却へ進み、準備のなかった人ほど持ち続ける側に寄っています。 これは相関であり、因果ではありません。準備をした世帯はもともと売る前提だった、という説明も同じデータでできます。
調査結果のまとめ
- 空き家の58%は相続で取得され、そのうち77%は相続前に何の対策もしていません。人が住まなくなった理由の44%は死亡です(令和6年空き家所有者実態調査)
- 売るには期限があります。3000万円の特別控除は、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。制度自体も令和9年12月31日までです(租税特別措置法35条3項)
- 家屋の要件は厳しく、使えないことのほうが多いです。昭和56年5月31日以前の建築・区分所有建物でない・相続開始の直前に被相続人以外の居住者がいない、の3つを同時に満たす必要があります(同条4項)
- 貸すのは、3つの中でいちばん戻しにくい選択です。普通借家では貸主から更新を断るのに正当事由が要ります
- 更地にすると土地の固定資産税は計算上およそ6倍になります。小規模住宅用地の課税標準は価格の6分の1です(地方税法349条の3の2)
- 持ち続けることは、唯一あとで他に移れる選択肢です。ただし傷めば選択肢は減ります。管理が年に1〜数回の空き家は構造上の不具合が24.3%、数年に1回では33.3%でした
- 実際にいちばん多いのは「所有しておく」で約32%。使用目的のない空き家に限れば約41%です
誰も住まないご実家を、毎月みまもります
貸すか、売るか、持ち続けるか。決めるまでの間も空き家は傷みます。
担当が月1回訪問して状況を確認し、写真つきの報告書でお送りします。月2,750円(税込)から、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県で承っています。
お申し込みはネットで完結します。所要3分ほどです。
根拠にした資料
国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)
租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第35条第3項・第4項
地方税法(昭和25年法律第226号)第349条の3の2
不動産登記法(相続登記の申請の義務化。2024年4月1日施行)
借地借家法(平成3年法律第90号)
当社集計:全国585自治体の空き家バンク掲載情報 10,954件(2026年9月時点)
条文は2026年9月7日に e-Gov 法令検索で確認しました。税額と控除の可否は個々の事情で変わります。断定的な判断はしていません。実際の適用は、物件のある自治体の資産税担当または税理士にご確認ください。