行政代執行になると、
費用は誰がいくら払うのか
費用は
行政代執行の費用は、義務者である所有者等から徴収されます(行政代執行法第2条・第5条)。徴収は国税滞納処分の例によることができ、行政庁は国税と地方税に次ぐ先取特権を持ちます(同法第6条)。金額は条文には無く、実際の事例で見るしかありません。総務省行政評価局が平成31年1月にまとめた代執行48件の事例集(平成27年度から29年度までに実施)では、1件の費用は19万円から約2,000万円までと幅があり、行政代執行10件のうち全額を回収済みなのは1件でした。条文と公表資料で、誰が払うのか、いくらだったのか、どこまで回収されたのかを整理しました。
誰が払うか
通常の代執行
特定空家等の所有者等が命令に従わない場合、空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)第22条第9項により、市町村長は行政代執行法の定めるところに従い、自ら措置をとり、または第三者にさせることができます。 費用の扱いは、空家法ではなく行政代執行法の側に書かれています。
行政代執行法第2条
法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
出典:行政代執行法(昭和23年法律第43号)第2条
払うのは「義務者」、つまり空家法第22条第3項の命令を受けた所有者等です。 行政代執行法第3条第2項は、戒告のあとに送る代執行令書に「代執行に要する費用の概算による見積額」を記載して義務者に通知するとしています。 金額は、代執行の前の段階で見積額として知らされます。
出典:行政代執行法第3条第2項
所有者が分からない場合と緊急の場合
所有者等を確知できない場合の略式代執行(空家法第22条第10項)と、命令のいとまがない場合の緊急代執行(空家法第22条第11項)では、 条文に「命令対象者の負担において」と書かれています。 空家法第22条第12項は、この2つの場合の費用の徴収に行政代執行法第5条・第6条を準用すると定めています。 過料との関係は空き家を放置すると罰則はあるのか。過料と行政代執行に、 略式代執行の費用徴収が2023年の改正で変わった点は空家等対策特別措置法。2023年の改正で何が変わったかにまとめています。
出典:空家法第22条第10項から第12項まで
徴収の方法
行政代執行法第5条
代執行に要した費用の徴収については、実際に要した費用の額及びその納期日を定め、義務者に対し、文書をもつてその納付を命じなければならない。
行政代執行法第6条
代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを徴収することができる。
代執行に要した費用については、行政庁は、国税及び地方税に次ぐ順位の先取特権を有する。
代執行に要した費用を徴収したときは、その徴収金は、事務費の所属に従い、国庫又は地方公共団体の経済の収入となる。
出典:行政代執行法第5条・第6条
徴収されるのは見積額ではなく「実際に要した費用の額」で、文書による納付命令が出ます。 払わない場合は国税滞納処分の例により徴収でき、具体的には財産の差押えが可能です。 先取特権は国税・地方税に次ぐ順位なので、相続財産の清算などの場面で他の債権より先に配当を受けます。 総務省の事例集では、北海道室蘭市が所有者との面談で、代執行費用は公債権に当たるため自己破産しても免責されないと説明した経過が記録されています。
出典:行政代執行法第6条、総務省行政評価局「Ⅱ-3-③ 行政代執行・略式代執行取組事例集」事例番号1(北海道室蘭市)
事例集にある金額
1都3県の事例
総務省行政評価局は「空き家対策に関する実態調査 結果報告書」(平成31年1月)の事例集として、 平成27年度から29年度までに実施された行政代執行10件と略式代執行38件の計48件を「Ⅱ-3-③ 行政代執行・略式代執行取組事例集」にまとめています。 費用は万円単位で、補助金の有無と回収状況が添えられています。このうち1都3県の6件を抜き出しました。
| 自治体 | 種別 | 対象 | 費用 | 回収状況(調査時点) |
|---|---|---|---|---|
| 東京都品川区 | 行政代執行 | 平屋の改修と廃棄物の撤去 | 423万円 | 預金差押えにより全額回収済 |
| 東京都板橋区 | 行政代執行 | 2階建の除却と廃棄物 | 約2,000万円 | 相続財産管理人から回収予定 |
| 千葉県柏市 | 行政代執行 | 鉄骨造3階建の除却 | 1,000万円 | 土地差押え後、公売により一部回収 |
| 千葉県香取市 | 略式代執行 | ビル附属物の改修 | 119万円 | 不在者財産管理人から全額回収済 |
| 千葉県香取市 | 略式代執行 | ブロック塀の除却 | 19万円 | 全額自治体負担 |
| 千葉県香取市 | 略式代執行 | 2階建の除却 | 308万円 | 相続財産管理人から回収予定 |
出典:総務省行政評価局「Ⅱ-3-③ 行政代執行・略式代執行取組事例集」(平成31年1月。事例は平成27〜29年度実施分)事例番号7から12まで。自治体名は各事例の見出しで確認。費用は補助金なし
48件の中で最も小さい費用は香取市のブロック塀の19万円、最も大きいのは板橋区の約2,000万円です。 48件には北海道室蘭市の840万円(擁壁の崩壊を伴う除却)、新潟県十日町市の1,040万円(元旅館の除却)なども含まれます。 事例集には全国の平均や合計は載っておらず、この記事でも計算していません。 件数が48件で、対象の規模も家屋の除却からブロック塀の撤去まで幅があるため、平均に意味が無いと考えられます。
国土交通省の「地方公共団体の空き家対策の取組事例1」(平成28年度調査)にも同じ事例が載っており、 品川区は撤去等の費用約420万円(当時は建物管理者に請求中)、板橋区は解体等工事費用約2,000万円、室蘭市は撤去等の費用約840万円とされています。 2つの資料の金額は整合しています。
出典:国土交通省「地方公共団体の空き家対策の取組事例1」(平成28年度調査)行政代執行の事例(東京都品川区・東京都板橋区・北海道室蘭市)
金額を動かす要因
事例集の経過を読むと、費用を押し上げた要因が記録されています。
- 工法の制約。柏市は除却現場がJRの線路に近く、大型重機の使用を断念して手作業で解体したため、工事期間が約2か月に長期化し、通行止めとガードマンの配置も加わって除却費用が増加しました
- アスベスト。香取市の2階建の除却では、解体部材にアスベストが含まれていたため、処理費用の追加予算54万円を議決しています
- 廃棄物。品川区と板橋区は建物内の大量の廃棄物の処理を含んでいます。北海道豊浦町の事例にも廃棄物による追加費用の発生が記録されています
- 除却の範囲。事例集は、跡地を更地にせず建物の基礎部分を残した例が8件あり、工事費用を圧縮する目的が挙げられていると記しています
出典:総務省行政評価局「Ⅱ-3-③ 行政代執行・略式代執行取組事例集」事例番号3・7・10・11・12、同「空き家対策に関する実態調査 結果報告書(各論)」図表Ⅱ-3-⑥
代執行の費用は、所有者が自分で解体を頼む場合の費用に、安全対策や廃棄物処理、緊急の工法などが上乗せされた額になります。 特定空家等に当たる状態は「特定空家等」とは何か。当たる4つの状態と、そのあとに起きることにまとめています。
回収の状況と手法
48件の回収状況
総務省行政評価局の「空き家対策に関する実態調査 結果報告書(各論)」は、48件の費用回収の状況を図表Ⅱ-3-⑧にまとめています。
| 種別 | 回収状況(調査時点) | 件数 |
|---|---|---|
| 行政代執行(10件) | 所有者等から費用全額を回収済み | 1件 |
| 行政代執行(10件) | 全額回収の見込みが無く費用の一部を回収済み又は回収見込み | 3件 |
| 行政代執行(10件) | 所有者等が分割納付中 | 2件 |
| 行政代執行(10件) | 所有者等へ請求中 | 3件 |
| 行政代執行(10件) | 費用回収方法検討中 | 1件 |
| 略式代執行(38件) | 費用全額を回収済み | 4件 |
| 略式代執行(38件) | 費用の一部に国又は県の補助金を利用 | 13件 |
| 略式代執行(38件) | 費用全額又は一部を回収予定 | 5件 |
| 略式代執行(38件) | 費用回収方法検討中 | 3件 |
| 略式代執行(38件) | 全額自治体負担 | 13件 |
出典:総務省行政評価局「空き家対策に関する実態調査 結果報告書(各論)」(平成31年1月)図表Ⅱ-3-⑧ 代執行の費用回収状況。総務省の調査時点における状況
所有者が分かっている行政代執行10件でも、調査時点で全額を回収済みなのは1件(品川区)でした。 所有者が分からない略式代執行38件では、13件が全額自治体負担です。 同じ報告書は、命令を実施していない自治体の意見として「費用が全額回収できる見込みは薄い」ことを命令に踏み込めない理由に挙げています。 条文上は所有者等が払うものですが、実際には自治体が回収できていない例が多いのが、平成27〜29年度の事例の状況です。
出典:同報告書(各論)「エ 命令」(ア)③
回収の手法
同じ報告書の図表Ⅱ-3-⑨は、回収できた自治体の手法を挙げています。
- 分割納付。室蘭市は所有者と行政代執行費用納付誓約書兼債務承認書を取り交わし、月額2万円の分割納付としました(840万円の事例)。山形県川西町も分割納付を受け入れています
- 預金の差押え。品川区は、代執行時に見つかった銀行からの通知をもとに預金調査を行い、差押えで回収しました
- 給与の差押え。福岡県飯塚市は、所有者が費用請求に応じないため給与を差し押さえて回収中です
- 土地の公売。柏市は費用回収業務を債権回収担当部局に引き継ぎ、県を通じて土地を公売しました。十日町市も他の所有地を差し押さえて公売しています
- 財産管理人。板橋区は相続財産管理人を選任したうえで代執行を行い、先取特権により配当弁済を受ける手法をとりました
出典:総務省行政評価局「空き家対策に関する実態調査 結果報告書(各論)」図表Ⅱ-3-⑨ 代執行の費用回収手法例、「Ⅱ-3-③ 行政代執行・略式代執行取組事例集」事例番号1・7・11・12
所有者の側から見ると、代執行の費用は預金、給与、土地のいずれからも徴収されうる債権です。 分割納付の例もありますが、それは自治体との協議で決まるもので、条文に分割の定めはありません。
件数の推移
国土交通省・総務省の調査「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」(令和7年3月31日時点、調査対象1,741市区町村)によると、 特定空家等への代執行の件数は次のように推移しています。
| 年度 | 行政代執行 | 略式代執行 | 緊急代執行 |
|---|---|---|---|
| 平成27年度 | 2件 | 8件 | ― |
| 平成29年度 | 12件 | 40件 | ― |
| 令和3年度 | 47件 | 84件 | ― |
| 令和5年度 | 34件 | 95件 | 3件 |
| 令和6年度 | 71件 | 81件 | 9件 |
| 平成27年度から令和6年度までの小計 | 286件 | 592件 | 12件 |
出典:国土交通省・総務省調査「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」(令和7年3月31日時点)「5.管理不全空家等及び特定空家等に対する措置状況」。平成28年度・30年度・令和元年度・2年度・4年度は省略。緊急代執行は令和5年12月13日施行の改正で新設
令和6年度の行政代執行71件は、総務省の事例集が対象にした時期の平成27年度の2件、平成29年度の12件と比べて大きく増えています。 費用の事例集は平成27〜29年度の48件に基づくもので、現在の件数の規模とは時点が違います。金額の水準も当時の工事費によるものです。
調査結果のまとめ
- 代執行の費用は義務者(命令を受けた所有者等)から徴収されます(行政代執行法第2条)。見積額は代執行令書で通知され(同法第3条第2項)、実際に要した額の納付命令が文書で出ます(同法第5条)
- 払わないときは国税滞納処分の例により徴収でき、行政庁は国税・地方税に次ぐ先取特権を持ちます(行政代執行法第6条)
- 所有者が分からない略式代執行と緊急代執行は「命令対象者の負担において」行われ、徴収には行政代執行法第5条・第6条が準用されます(空家法第22条第10項から第12項まで)
- 総務省の事例集(平成27〜29年度の48件)では、費用は19万円から約2,000万円まででした。1都3県では品川区423万円、板橋区約2,000万円、柏市1,000万円、香取市19万円・119万円・308万円です
- 調査時点で、行政代執行10件のうち全額回収済みは1件、略式代執行38件のうち全額自治体負担は13件でした(図表Ⅱ-3-⑧)
- 回収の手法は、分割納付、預金・給与の差押え、土地の公売、財産管理人の選任でした(図表Ⅱ-3-⑨)
- 行政代執行の件数は令和6年度に71件で、平成27年度からの小計は286件です(令和7年3月31日時点)
代執行の費用は、自分で解体を頼むより高くなる要因(安全対策・廃棄物・緊急の工法)を含み、しかも徴収は税と同じ手続きで進みます。 助言・指導と勧告の段階で状態を改善すれば、命令にも代執行にも進みません。 自分の家がどの段階にあるかは、物件のある市区町村の空き家対策の担当窓口で確かめられます。
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根拠にした資料
行政代執行法(昭和23年法律第43号)第2条・第3条・第5条・第6条
空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)第22条
総務省行政評価局「Ⅱ-3-③ 行政代執行・略式代執行取組事例集」(空き家対策に関する実態調査 結果報告書 Ⅲ事例集の一部、平成31年1月。事例は平成27〜29年度実施分)
総務省行政評価局「空き家対策に関する実態調査 結果報告書(各論)」(平成31年1月)図表Ⅱ-3-⑥・Ⅱ-3-⑧・Ⅱ-3-⑨
国土交通省「地方公共団体の空き家対策の取組事例1」(平成28年度調査)
国土交通省・総務省調査「空家等対策の推進に関する特別措置法の施行状況等について」(令和7年3月31日時点)
条文は2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確認しました。事例の金額は平成27〜29年度の実施分で、当時の工事費によるものです。全国の平均や合計を出した公的資料は無く、この記事でも計算していません。個別の代執行の費用と徴収の手続きは、物件のある市区町村の空き家対策の担当窓口で確かめられます。