実家が処分できない。
詰まる原因と、順に外していく手順
詰まる
止まっている場所は、家そのものではなく手続きの側にあることが多いと考えられます。詰まりは「共有」「登記」「残置物」「境界」「再建築不可」の5つに分かれ、外すのに要る同意の数も、かかる時間も、それぞれ違います。国土交通省の調査では、賃貸・売却する上での課題として家財などの処理を挙げた世帯が37.4%、再建築不可を挙げた世帯が7.6%でした。5つを切り分けて、条文にあたって外す順番を整理しました。
詰まっている場所の切り分け
調査に出ている詰まり方
国土交通省が2025年8月に公表した「令和6年空き家所有者実態調査結果」は、 今後5年間程度のうちに賃貸または売却する意向の世帯に、その課題を尋ねています。
| 賃貸・売却する上での課題 | 割合 |
|---|---|
| 住宅の傷み | 43.3% |
| 借り手・買い手の少なさ | 40.3% |
| 家財などの処理 | 37.4% |
| 設備や建具の古さ | 34.0% |
| 再建築不可(道路付けの悪さなど) | 7.6% |
出典:国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-123(複数回答)
空き家として所有しておく意向の世帯では、その理由として 家財などの処理が困難が21.6%、再建築不可(道路付けの悪さなど)が6.9%、 所有者が複数で合意が困難が2.2%でした。
出典:同調査 図表4-130(複数回答)
5つに分けて、外す順番を決める
調査に出てくる課題を、外し方の違いで並べ直すと5つになります。 先に片づくものと、時間のかかるものが混ざっています。
| 詰まり | 外すのに要るもの | 先に動かせるか |
|---|---|---|
| 共有 | 他の共有者の同意(行為によって数が変わる) | 人数しだい |
| 登記 | 戸籍などの書類と申請 | 1人で動かせる |
| 残置物 | 中身の確認と処分 | 承認・放棄の判断が先 |
| 境界 | 隣地所有者との確認、または筆界特定の申請 | 相手が要る |
| 再建築不可 | 敷地が接する道路の条件の確認 | 調べるだけなら1人でできる |
順番としては、1人で動かせる「登記」と「再建築の可否の確認」を先に済ませ、 相手のいる「共有」「境界」を並行して進め、「残置物」は承認か放棄かを決めてから手を付けるのが、 止まりにくい進め方だと考えられます。
共有:行為ごとに変わる同意の数
変更・管理・保存の3つ
実家が兄弟の共有になっている場合、家にできることは3つに分かれ、 それぞれ要る同意の数が違います。
民法第251条第1項
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
出典:民法(明治29年法律第89号)第251条第1項
売却と取り壊しは、この「変更」にあたると考えられます。共有者の同意が要ります。 一方、管理に関する事項は各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するとされ(第252条第1項)、 保存行為は各共有者が単独でできます(同条第5項)。 見回りや草刈りは保存行為の側です。
貸すことは管理に含まれますが、期間の上限が条文に書かれています。 第252条第4項は、建物の賃借権等は3年、樹木の栽植または伐採を目的とする山林以外の土地の賃借権等は5年を超えないものに限るとしています。
出典:同法第252条第1項・第4項・第5項
話がまとまらないときの道筋
同意が集まらない場合、条文には2つの出口が用意されています。
- 分割を請求する。第256条第1項は、各共有者がいつでも共有物の分割を請求できると定めています。協議が調わないときは裁判所に請求できます(第258条第1項)。裁判所は現物を分割する方法、または共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法を命ずることができ、それができないときは競売を命ずることができます(同条第2項・第3項)
- 所在の分からない共有者がいる場合の裁判を使う。第251条第2項は、他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないときに、その者以外の同意で変更を加えることができる旨の裁判を求められるとしています。管理についても同様の定めがあります(第252条第2項)
出典:同法第251条第2項・第256条第1項・第258条
共有の空き家は、登記の側でも止まりやすい状態にあります。 調査では所有者の数が1人(単独所有)が84.6%、2人以上(共有)が14.0%で、 共有の空き家では登記と名義変更のいずれも行っていない世帯が23.8%、 単独所有では12.5%でした。
出典:同調査 図表4-31・図表4-38
同意の数の分かれ方は 実家を兄弟の共有名義にすると、あとで何が起きるかで詳しく整理しています。
登記:名義が動いていない家
申請の義務と期限
名義が亡くなった人のままだと、売る相手に所有権を移す手続きに進めません。 相続による登記は、2024年4月1日から申請が義務になっています。
不動産登記法第76条の2第1項
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2第1項
この登記は1人で申請できます。 同法第63条第2項は、相続による権利の移転の登記を登記権利者が単独で申請することができると定めています。 共有者の同意が集まらない段階でも、登記の側だけは先に進められます。
分け方が決まらないまま期限が近づいている場合には、同法第76条の3が定める 相続人である旨の申出という手段があります。
出典:同法第63条第2項・第76条の3
登記していない理由の内訳
調査では、登記と名義変更のいずれも行っていない世帯が14.1%でした。 その理由は次のとおりです。
| 登記または名義変更しない理由 | 割合 |
|---|---|
| 登記や名義変更しなくても困らなかった | 56.8% |
| 手続きがわずらわしかった | 10.5% |
| 費用の負担感が大きかった | 6.8% |
| その他 | 25.9% |
出典:同調査 図表4-33・図表4-39。設問は相続登記が義務化された令和6年4月1日より前の令和5年10月1日現在の状況を尋ねたものです。
手続きと費用を理由に挙げた世帯を合わせても2割に届かず、 最も多いのは「困らなかった」です。 売る段になってから困る、という順序になっています。期限と手続きは 相続登記の義務化。3年以内に何をすればよいのか、 書類の集め方は 実家の名義変更。必要な書類と、自分でやる場合の手順にまとめています。
残置物:家財が残っている家
捨てる前に決めること
家財の処理は、調査で賃貸・売却する上での課題として37.4%が挙げた項目です。 ただし、承認するか放棄するかを決める前に中身を処分すると、条文上の効果が生じます。
民法第921条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。一相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
出典:民法第921条第1号。条文は第3号まで続きます。
承認か放棄かを決める期間は、自己のために相続の開始があったことを知った時から 3か月です(第915条第1項)。この期間は、利害関係人または検察官の請求によって家庭裁判所で伸長することができるとされています。
出典:同法第915条第1項
借金の有無がはっきりしていない段階では、先に中身を確かめ、処分はそのあとにする順序になります。 進め方は 実家の片付けを、どの順番で進めるかにまとめています。
運ぶ人には許可が要る
家庭から出た廃棄物を業として運ぶには、許可が要ります。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律第7条第1項
一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域(運搬のみを業として行う場合にあつては、一般廃棄物の積卸しを行う区域に限る。)を管轄する市町村長の許可を受けなければならない。
出典:廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第7条第1項。ただし書は省略しています。
頼む相手が許可を受けているかどうかは、物件のある市区町村の廃棄物の担当窓口で確かめられます。 料金の決まり方は 実家の片付けを業者に頼むと、料金は何で決まるのかで整理しています。
境界:隣地との線が決まっていない土地
境界標と、隣地の使用
売買の場面では、土地の範囲がどこまでかが問題になります。 民法第223条は、土地の所有者が隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができると定めています。
測量や境界標の調査のために隣の土地に入る必要がある場合、第209条第1項第2号は 境界標の調査又は境界に関する測量のために必要な範囲内で隣地を使用できるとしています。 ただし住家については、その居住者の承諾がなければ立ち入ることはできません(同項ただし書)。 あらかじめ目的・日時・場所・方法を通知することも求められています(同条第3項)。
出典:民法第209条第1項・第3項・第223条
筆界特定という手続き
隣地所有者との話し合いで決まらない場合、登記所の手続きがあります。 不動産登記法第123条第2号は、筆界特定を 「一筆の土地及びこれに隣接する他の土地について、この章の定めるところにより、筆界の現地における位置を特定すること」と定義しています。
不動産登記法第131条第1項
土地の所有権登記名義人等は、筆界特定登記官に対し、当該土地とこれに隣接する他の土地との筆界について、筆界特定の申請をすることができる。
出典:不動産登記法第131条第1項
申請には手数料がかかります。額は政令で定められています(同条第4項)。 筆界特定登記官は、筆界調査委員の意見を踏まえ、登記記録、地図または地図に準ずる図面、 土地の地形・地目・面積・形状、工作物・囲障・境界標の有無などを総合的に考慮して筆界特定をし、 筆界特定書を作成するとされています(同法第143条第1項)。
ここで決まるのは筆界であって、所有権の範囲そのものではありません。 同法第123条第1号は、筆界を「一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線」と定義しています。 所有権の範囲について争いがある場合の扱いは、手続きが別になります。 具体的な進め方は、法務局または土地家屋調査士・司法書士にご確認ください。
出典:不動産登記法第123条・第131条第4項・第143条第1項
再建築不可:建て替えができない土地
調査に出てくる割合
再建築不可(道路付けの悪さなど)を課題に挙げた世帯は、 賃貸・売却する意向の世帯で7.6%、 空き家として所有しておく意向の世帯で6.9%でした。
出典:同調査 図表4-123・図表4-130(いずれも複数回答)
同じ設問で住宅の傷みは43.3%、家財などの処理は37.4%です。 再建築の可否は、詰まりの中では少数派の位置にあります。 先に確かめるべきものが他にある、と読めます。
確かめる先と、確かめる順番
建て替えができるかどうかは、敷地が接している道路の種類と幅、接している長さで決まります。 これは物件ごとに決まっているもので、 市区町村の建築を担当する窓口で確認できます。 登記簿や図面だけでは分からないため、窓口で調べる作業が要ります。
確かめる順番としては、売る・貸す判断より前に置くほうが早いと考えられます。 建て替えができない土地でも、いま建っている家をどう扱うかという話は残ります。 売却価格や賃料への影響は物件ごとに異なるため、 個別の見通しは不動産会社または市区町村の窓口にご確認ください。
調査結果のまとめ
- 賃貸・売却する上での課題は、住宅の傷み43.3%、借り手・買い手の少なさ40.3%、家財などの処理37.4%でした(図表4-123・複数回答)。再建築不可(道路付けの悪さなど)は7.6%です
- 共有では、売却や取り壊しにあたる「変更」に他の共有者の同意が要ります(民法第251条第1項)。管理は持分の価格の過半数、保存行為は単独でできます(第252条第1項・第5項)
- 共有物の分割はいつでも請求でき(第256条第1項)、協議が調わないときは裁判所に請求できます(第258条第1項)
- 相続による所有権の移転の登記は、取得を知った日から3年以内の申請が義務です(不動産登記法第76条の2第1項)。この登記は登記権利者が単独で申請できます(同法第63条第2項)
- 登記と名義変更をしていない世帯は14.1%で、理由の最多は登記や名義変更しなくても困らなかったが56.8%でした(図表4-33・図表4-39)
- 相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認をしたものとみなされます(民法第921条第1号)。承認か放棄かを決める期間は3か月です(第915条第1項)
- 家庭から出た廃棄物の収集運搬を業として行うには、市町村長の許可が要ります(廃棄物の処理及び清掃に関する法律第7条第1項)
- 境界が決まらないときは、筆界特定の申請という手続きがあります(不動産登記法第131条第1項)。特定されるのは筆界であって、所有権の範囲そのものではありません(同法第123条)
- 再建築の可否は敷地が接する道路の条件で決まり、市区町村の建築を担当する窓口で確認できます
5つの詰まりは、同時に外す必要はありません。 1人で動かせる登記と再建築の可否の確認を先に済ませると、残りの相談が具体的になります。 個別の判断は、司法書士・土地家屋調査士または市区町村の窓口にご確認ください。
誰も住まないご実家を、毎月みまもります
貸すか、売るか、持ち続けるか。決めるまでの間も空き家は傷みます。
担当が月1回訪問して状況を確認し、写真つきの報告書でお送りします。月2,750円(税込)から、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県で承っています。
お申し込みはネットで完結します。所要3分ほどです。
根拠にした資料
国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-31・図表4-33・図表4-38・図表4-39・図表4-123・図表4-130
民法(明治29年法律第89号)第209条・第223条・第251条・第252条・第256条・第258条・第915条・第921条
不動産登記法(平成16年法律第123号)第63条・第76条の2・第76条の3・第123条・第131条・第143条
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第7条
条文は2026年9月20日に e-Gov 法令検索で確認しました。筆界特定の手数料の額は政令で定められています。建て替えの可否は敷地ごとに決まります。本記事は条文と統計の説明であり、個別の事案についての判断ではありません。実際の手続きは、法務局・市区町村の窓口または司法書士・土地家屋調査士にご確認ください。