空き家を1年放置すると、
家の中で何が起きるか
1年でいちばん早く変わるのは、建物ではなく水まわりです。排水口の下にある水の蓋は、使わなければ数週間で蒸発し、下水の臭いと虫の通り道になります。木材が腐るには別の条件が要り、実験では含水率30%以上が18週続いた材で腐朽が確認されています。国の調査では、管理が年に数回まで減った空き家は、構造上の不具合が出ている割合が高くなります。何が、どの順番で起きるのかを、公的な資料にあたって整理しました。
1年で変わるものと、変わらないもの
変化の速さは場所によって違う
「1年放置したらボロボロになる」という言い方をよく見かけますが、実際には場所によって進み方がまったく違います。 数週間で変わるものと、数年かけて変わるものが混ざっています。
| 変わるもの | 目安の時間 | 起きること |
|---|---|---|
| 排水口の封水 | 数週間 | 蒸発してなくなり、下水とつながる |
| 郵便受け | 数週間 | あふれて、留守だと外から分かる |
| 庭の草木 | ひと夏 | 伸びて隣地や道路にはみ出す |
| 室内の湿気・カビ | 数か月 | 換気が止まり、湿気がこもる |
| 木材の腐り | 数か月〜数年 | 水が入り続けた場所から進む |
| 屋根・外壁の損傷 | 数年 | 雨風で少しずつ傷む |
上の時間は、それぞれの節で示す資料と条件から整理した目安です。建物の状態・立地・季節によって変わります。
1年で決定的に傷むわけではない
正確に言えば、1年で家が壊れることはほとんどありません。 1年で起きるのは「傷みが始まる条件が整うこと」です。 雨漏りが始まった、封水が切れて排水管が開いた、庭木が屋根に触れるようになった——こうした状態が放置されると、 そこから2年目、3年目に本格的な傷みが出ます。
つまり1年目にやるべきことは、修繕ではなく「変化に気づくこと」です。
水まわり:封水が切れて、臭いと虫の通り道になる
排水口の下には水の蓋がある
台所・洗面・浴室・トイレの排水口の下には、水をためて栓の代わりにする部分があります。これを封水(ふうすい)と呼びます。 建物の設備の基準を定めた昭和50年建設省告示第1597号は、排水トラップについて次のように定めています。
排水管内の臭気、衛生害虫等の移動を有効に防止することができる構造とすること。
封水深は、5センチメートル以上10センチメートル以下とすること。
つまり、下水の臭いと虫を室内に入れないための仕組みが、5〜10cmの水だけでできています。 水を使い続けているあいだは補充されますが、誰も住まなくなると補充が止まります。
水がなくなると何が起きるか
封水がなくなると、排水管が室内と直接つながります。告示が防ごうとしている状態が、そのまま起きます。
- 下水の臭いが室内に上がってくる
- 排水管を通ってくる虫の入口ができる
- 臭いが壁紙や畳に移り、換気しても戻りにくくなる
蒸発にかかる期間は、季節・室温・トラップの形で変わります。 夏の締め切った家は早く、冬は遅くなります。目安を数字で示している公的な資料は見当たらなかったため、 ここでは「使わなければいずれ蒸発する」という事実にとどめます。
すぐできる対処
訪問できるなら、各排水口の水を1分ほど流すだけで封水は戻ります。次に来るまで間隔があくときは、排水口にラップをかけて蒸発を抑える方法もあります。水道を止めてしまうとこれができなくなります。止めるかどうかは、通う頻度と合わせて決めてください。
木材:腐るには水がいる
腐朽には4つの条件がそろう必要がある
木が腐るのは、木材腐朽菌という菌が木を分解するからです。 国土技術政策総合研究所の資料は、木造住宅で腐朽を起こす主役を担子菌類とし、その必須条件を次のように挙げています。
必須条件は、空気(酸素)、水分、温度、養分である。
養分は木材そのものなので減りません。空気も温度も止められません。 残る一つ、水分だけが、私たちが変えられる条件です。 同資料も「基本的な戦略として水分を制御することが腐朽を防ぐために重要」と述べています。
どのくらい濡れていると腐るのか
同資料は、水分について次の数値を示しています。
| 条件 | 数値 |
|---|---|
| 腐朽に適した含水率 | 30%(繊維飽和状態)〜150%程度 |
| 菌が育つ温度 | おおよそ20〜30℃(50℃以上で多くが停止・死滅) |
| 実験で腐朽が発生した条件 | 含水率30%以上が18週以上維持された試験体 |
出典:国土技術政策総合研究所資料 第975号「第Ⅵ章 木造住宅の外皮木部の水分履歴に応じた腐朽危険度予測手法」
18週はおよそ4か月です。木材が濡れた状態のまま4か月ほど続くと、腐りが始まる。これが実験室で確かめられている条件です。 逆に言えば、濡れても乾く家では腐朽は進みません。
この数値の読み方
上の18週という数字は、含水率を調整した小さな試験体を恒温室(30℃・湿度95%)に置いて確かめたものです。実際の住宅がそのまま同じ経過をたどるという意味ではありません。「木が濡れっぱなしになると数か月で腐りが始まりうる」という目安として読んでください。
1年目に水が入り込む場所
人が住んでいれば、雨漏りやにじみはすぐに気づきます。誰もいない家では、気づかれないまま水が入り続けます。 入口になりやすいのは次の場所です。
- 屋根や雨どいの詰まり。落ち葉がたまって水があふれ、外壁を伝う
- 台風で外れた瓦・板金のすきま
- 結露。締め切った家は湿気が抜けず、北側の壁や押し入れにたまる
- 床下。換気口が草や物でふさがれると、湿気が抜けなくなる
外まわり:先に気づくのは近所の人
行政が見ている状態は決まっている
2023年12月に施行された改正空家等対策の推進に関する特別措置法で、 「管理不全空家等」という区分が設けられました。国土交通省のガイドラインは、そう判断される状態の例を具体的に挙げています。
| 区分 | ガイドラインが挙げる状態の例 |
|---|---|
| 健康被害 | 排水設備の破損等 |
| 害虫等 | 清掃等がなされておらず、常態的な水たまりや多量の腐敗したごみ等が敷地等に認められる状態 |
| 動物 | 駆除等がなされておらず、常態的な動物の棲みつきが敷地等に認められる状態 |
| 立木 | 立木の伐採、補強等がなされておらず、腐朽が認められる状態 |
| 擁壁 | 擁壁のひび割れ等の部材の劣化、水のしみ出し又は変状/水抜き穴の清掃等がなされておらず、排水不良が認められる状態 |
出典:国土交通省「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」令和5年12月
並べてみると、いずれも「清掃・伐採・駆除がなされていない」という、手入れの有無を見る書き方になっています。 建物の中の傷みではなく、外から見て分かる状態が対象です。
1年で外から分かるようになるもの
- 草木。ひと夏で伸びて、道路や隣地にはみ出します。落ち葉が雨どいをふさぐ原因にもなります
- 郵便受け。あふれた郵便物やチラシは、留守だと外から分かる合図になります
- ごみの投げ入れ。人の出入りがないと分かると、敷地に物が置かれ始めることがあります
これらは建物の傷みとしては軽いものですが、近隣からの連絡や、市区町村への相談につながるのはこの部分です。
管理の頻度と傷みの関係を、国の調査で見る
年に数回まで減ると、不具合の割合が上がる
国土交通省が2025年8月に公表した「令和6年空き家所有者実態調査結果」は、 管理の頻度別に、建物の腐朽・破損の状態を集計しています。
| 管理の頻度 | 構造上の不具合が生じていた |
|---|---|
| ほぼ毎日 | 15.3% |
| 週に1〜数回 | 16.3% |
| 月に1〜数回 | 17.5% |
| 年に1〜数回 | 24.3% |
| 数年に1回 | 33.3% |
出典:国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)第3章。管理者がいる空き家 1,225千世帯が対象。
ほぼ毎日から月に1〜数回までは15〜18%で大きく変わりません。 年に1〜数回に下がると24.3%、数年に1回では33.3%と、はっきり上がります。
この数字を「通えば傷まない」と読んではいけない
これは同時に集計された2つの項目の関係であって、通う頻度が原因で傷みが決まる、という意味ではありません。 同じ調査は逆向きの集計も示しており、傷みが大きい空き家ほど管理の頻度が低い、という読み方も同じデータからできます。 すでに傷んで足が向かなくなった家と、まだきれいで通いやすい家が、両方この表に含まれています。
言えるのは「月に1回以上通っている家と、年に数回しか通っていない家では、傷みの出方が違っている」という事実までです。 どちらが原因かは、この調査からは分かりません。
所有者が挙げている課題
同じ調査は、管理をする上での課題も聞いています(複数回答)。
| 課題 | 割合 |
|---|---|
| 管理の作業が大変 | 31.7% |
| 課題はない | 30.5% |
| 利用する予定がないので管理しても無駄になる | 27.1% |
| 管理費用の負担が大きい | 22.5% |
| 遠方に住んでいるので往訪が困難 | 21.6% |
| 管理を頼める人や業者がいない | 5.9% |
出典:同上。1,381千世帯が対象。
空き家を管理しているのは、所有者本人または同居している親族が76.8%、別居の親族が13.5%で、 合わせて約9割が身内による管理です。業者に頼んでいるのは3.8%、誰も管理していないが3.8%となっています。
1年のあいだに何をすればよいか
1回の訪問で見ておくこと
ここまでの内容を、1回の訪問で確認できる形に整理すると次のようになります。 特別な道具は要りません。
| 場所 | 見ること・すること | 理由 |
|---|---|---|
| 各排水口 | 水を1分ほど流す | 封水を戻し、臭いと虫を防ぐ |
| 窓 | 30分ほど開けて風を通す | 湿気を抜く |
| 天井・押し入れ・北側の壁 | しみ・カビ・においを見る | 雨漏りと結露に早く気づく |
| 雨どい | 落ち葉の詰まりを見る | あふれた水が外壁を濡らす |
| 床下換気口 | 草や物でふさがっていないか | 床下の湿気を抜く |
| 庭 | 道路・隣地へのはみ出しを見る | 近隣からの連絡につながる部分 |
| 郵便受け | 中身を出す | 留守だと外から分からないようにする |
写真を残しておく
同じ場所を毎回同じ角度で撮っておくと、変化が分かります。 1回だけ見ても、それが去年からあるしみなのか、今年ついたものなのかは判断できません。 記録がある家は、売るときにも貸すときにも、状態を説明する材料になります。
調査結果のまとめ
- 1年でいちばん早く変わるのは水まわりです。排水トラップの封水は5〜10cmの水しかなく、使わなければ蒸発して、下水の臭いと虫の通り道になります(昭和50年建設省告示第1597号)
- 木材が腐るには水が要ります。腐朽の必須条件は空気・水分・温度・養分の4つで、このうち変えられるのは水分だけです。実験では含水率30%以上が18週続いた試験体で腐朽が確認されています(国総研資料 第975号)
- 行政が見ているのは、建物の中ではなく手入れの有無です。管理不全空家等の状態の例は「清掃等がなされておらず」「駆除等がなされておらず」といった書き方で示されています(国交省ガイドライン 令和5年12月)
- 管理が年に1〜数回まで減った空き家は、構造上の不具合が生じている割合が24.3%、数年に1回では33.3%です。月に1回以上では15〜18%でした。ただしこれは相関であり、通う頻度が傷みの原因だと示すものではありません(令和6年空き家所有者実態調査)
- 空き家の約9割は、所有者本人か親族が管理しています。課題の上位は「管理の作業が大変」31.7%、「遠方に住んでいるので往訪が困難」21.6%でした(同調査)
- 1年目にやるべきことは修繕ではなく、変化に気づくことです。通水・換気・しみの確認・雨どいの詰まり・庭のはみ出し・郵便受け。この6つは道具なしで確認できます
誰も住まないご実家を、毎月みまもります
貸すか、売るか、持ち続けるか。決めるまでの間も空き家は傷みます。
担当が月1回訪問して状況を確認し、写真つきの報告書でお送りします。月2,750円(税込)から、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県で承っています。
お申し込みはネットで完結します。所要3分ほどです。
根拠にした資料
国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)
国土技術政策総合研究所資料 第975号「第Ⅵ章 木造住宅の外皮木部の水分履歴に応じた腐朽危険度予測手法」
昭和50年建設省告示第1597号「建築物に設ける飲料水の配管設備及び排水のための配管設備の構造方法を定める件」(改正 平成12年建設省告示第1406号)第2 排水設備
国土交通省「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」(令和5年12月)
空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)
いずれも2026年9月7日に原文を確認しました。建物の状態は個々に異なります。傷みが見つかった場合の判断は、建築士や施工業者にご相談ください。