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ホームお役立ちコラム相続人申告登記とは何か。相続登記との違いと使いどころ
相続・片づけ

相続人申告登記とは何か。
相続登記との違いと使いどころ

これは登記の申請ではなく、申出です。不動産登記法第76条の3第1項は「申し出ることができる」と書いており、同条第2項は、期間内に申し出た者について相続登記の申請義務を履行したものとみなすと定めています。ただし所有権が移ったことを示すものではありません。遺産分割の話がまとまらないまま3年の期限が近づいている人向けの手段です。条文にあたって、使える場面と使えない場面を分けました。

条文が定めている中身

「申請」ではなく「申し出ることができる」

名前に「登記」が付いているため相続登記の一種に見えますが、条文の言葉は違います。 不動産登記法第76条の3第1項は次のとおりです。

不動産登記法第76条の3第1項

前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、 登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の 相続人である旨を申し出ることができる。

出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の3第1項

申し出る内容は2つです。その不動産の登記名義人について相続が始まったことと、 自分がその相続人であること。 誰がどれだけの持分を取得したかは、ここには含まれていません。

期間内に申し出れば、義務を履行したものとみなされる

同条第2項は、申出の効き目を定めています。

不動産登記法第76条の3第2項

前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得 (当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を 履行したものとみなす。

出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の3第2項

前条第1項に規定する期間とは、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年です。 その期間内に申し出れば、相続登記を申請したのと同じ扱いになります。 同法第164条第1項の過料は「申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったとき」に 科されるものなので、義務を履行したとみなされる以上、その分については対象から外れることになります。

相続登記との違い

並べて比べる

 相続登記(第76条の2)相続人申告登記(第76条の3)
条文の言葉登記を申請しなければならない申し出ることができる
内容所有権の移転の登記相続の開始と、相続人である旨の申出
持分登記される申出の内容に含まれない
相続人全員の関与分け方の合意が要る相続人が1人で申し出られる
期限への効果義務を果たす義務を履行したものとみなされる
そのあと分割がまとまれば、その日から3年以内に登記の申請

出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2・第76条の3

職権で付記される情報の中身

申出を受けた登記官の扱いは、同条第3項に定めがあります。

不動産登記法第76条の3第3項

登記官は、第一項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び 住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。

出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の3第3項

登記簿に載るのは申出があった旨と、申し出た人の氏名・住所です。 所有権の登記名義人は、亡くなった人のまま残ります。 名義が変わるわけではないという点が、相続登記との最大の違いだと考えられます。

使いどころ

遺産分割の協議がまとまらないとき

相続登記を申請するには、誰がどの不動産を取得するかが決まっている必要があります。 話がついていない段階では、そもそも申請する内容が定まりません。 一方で第76条の3の申出は、分け方が決まっていなくてもできます。 申し出る内容が「相続が始まったこと」と「自分が相続人であること」に限られているためです。

期限だけが先に来る状況を、条文はこの形で受け止めていると考えられます。 話し合いを続けながら、期限への対応だけ先に済ませるという使い方です。

相続人が1人で動けるとき

第76条の3第1項の主語は「所有権の移転の登記を申請する義務を負う者」であり、 相続人全員でそろって申し出ることは求められていません。 連絡が取れない相続人がいる場合や、話し合いに応じない相続人がいる場合でも、 自分の分について自分で申し出ることができます。

なお、申出をした人が義務を履行したものとみなされるのは、 条文の書き方から申出をした人自身についてと読むのが素直です。 他の相続人の義務まで一緒に片付くかどうかは、この記事では判断できません。 家族の誰がどこまで申し出るべきかは、法務局または司法書士にご確認ください。

これで済ませてはいけない場面

売る・貸す・担保に入れる予定があるとき

申出で登記簿に付記されるのは、相続人である旨です。 所有権の登記名義人は変わりません。 不動産を売る、担保に入れるといった場面では、 所有権の登記名義人が誰かが問われるため、通常の相続登記が必要になると考えられます。

空き家を手放す方向で動いているのであれば、申出は途中の足場にすぎません。 期限は止まっても、出口には近づいていないという理解が必要です。

分割がまとまったら、そこから3年

申出をしたあとにも期限があります。同条第4項は次のとおりです。

不動産登記法第76条の3第4項

第一項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき (前条第一項前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、 当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の3第4項

そして同法第164条第1項は、第76条の3第4項の申請を怠った場合も 10万円以下の過料の対象として挙げています。 申出をしたことで期限から解放されるわけではありません。 分割がまとまった日が、新しい起算日になります。

分割がまとまらない家がどれくらいあるか

相続前に対策を講じていない世帯が77.0%

国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査によると、相続で空き家を取得した世帯のうち、 相続の前に「特に対策は講じていない」が77.0%、「相続前に対策を講じた」が23.0%でした。 講じた対策の中身は「被相続人との話し合い」が16.7%で最も多く、 「遺言の作成支援」は1.8%、「後見制度や家族信託の活用」は1.3%です。

出典:国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-29・図表4-30(複数回答)

遺言がある家は少数派です。分け方を決める作業は、亡くなったあとに始まるのが通常の姿だと考えられます。 そこに3年という期限が乗るため、申出という受け皿が置かれたと整理できます。

共有だと登記が止まりやすい

同じ調査では、所有者の数が2人以上(共有)の空き家について、 登記と名義変更の「いずれも行っていない」世帯の割合が23.8%でした。 1人(単独所有)は12.5%、総数は14.1%です。

出典:同調査 図表4-38。この設問は相続登記が義務化された令和6年4月1日より前の、令和5年10月1日時点の状況を尋ねたものです。

関わる人が増えるほど手続きは止まりやすくなります。 止まっている間の期限を、1人の行動で受け止められるという点が、 第76条の3の申出のいちばん実用的な性質だと考えられます。

調査結果のまとめ

使いどころははっきりしています。分け方が決まらないまま3年が近づいている場合です。 逆に、分け方が決まっているのであれば、申出を挟まずに相続登記を申請するほうが手数は少なくなります。 どちらにあたるかを、まず自分の状況で確かめることをおすすめします。

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根拠にした資料
不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2・第76条の3・第164条
国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-29・図表4-30・図表4-38
条文は2026年9月11日に e-Gov 法令検索で確認しました。申出の具体的な手続き・必要書類・費用は法務省令で定められる事項を含むため、この記事では扱っていません。実際の手続きは、不動産の所在地を管轄する法務局または司法書士にご確認ください。