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管理・傷み

空き家が地震で倒れて人に当たったら、
誰が責任を負うのか

民法第717条第1項は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があって他人に損害が生じたとき、まず占有者が賠償の責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときは所有者が賠償しなければならないと定めています。所有者の側には、注意をしたことで責任を免れるただし書きがありません。住む人も借りる人もいない空き家では、所有者が占有者を兼ねていることが多いと考えられます。地震で倒れた場合に責任が生じるかどうかは、揺れの大きさだけでなく、倒れる前の家に「設置又は保存」の瑕疵があったかどうかで判断されます。国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)では、「構造上の不具合が生じていた」空き家は19.6%、建築時期が1950年以前の空き家では39.1%でした。条文の構造と、倒れる前にできることを整理しました。

条文が定める責任の順番

民法第717条第1項

土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

出典:民法(明治29年法律第89号)第717条第1項

占有者が先、所有者があと

建物や塀は「土地の工作物」にあたります。 民法第717条第1項は、工作物の設置又は保存に瑕疵があって他人に損害が生じたとき、最初に占有者が賠償の責任を負うと定めています。 占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたことを示せば、占有者は責任を負わず、所有者が賠償しなければなりません。

所有者には免れるただし書きがない

占有者にはただし書きで責任を免れる道がありますが、所有者についてはそのような定めが条文に置かれていません。 そのため所有者の責任は、過失が無くても負う責任(無過失責任)と説明されます。 住む人も借りる人もいない空き家では、所有者が占有者を兼ねていることが多いと考えられ、その場合は所有者が最初から責任を問われる立場にあります。 建物を借りている人がいる場合など、誰が占有者にあたるかは個別の事情で判断されます。

民法第717条第3項

前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

出典:民法第717条第3項

民法第717条第3項により、たとえば建物の工事に原因があった場合など、損害の原因について他に責任を負う者がいるときは、賠償した占有者又は所有者がその者に求償できます。 被害者に対して最初に賠償する立場が変わるわけではありません。

地震で倒れた場合の「瑕疵」

民法第717条第1項が責任の要件にしているのは、「設置又は保存に瑕疵があることによって」損害が生じたことです。 地震で倒れた場合も、倒れる前の建物の状態が問われます。 傷みの無い建物が想定を超える揺れで倒れた場合と、柱や土台が傷んでいた建物が倒れた場合とでは、瑕疵があったか、その瑕疵によって損害が生じたかの判断が分かれると考えられます。 どの程度の傷みが瑕疵にあたるか、揺れの大きさをどう考慮するかは、建物の状態、揺れの大きさ、周りの建物の被害などの個別の事情で判断されます。

条文から読み取れるのは、地震という原因があっても所有者の責任が当然には消えないこと、そして倒れる前の設置又は保存の状態が判断の中心にあることです。 「設置」の瑕疵には建てた時点からの欠陥も含まれ、「保存」の瑕疵には建てたあとの傷みが含まれると考えられます。 揺れの大きさなどの事情は、責任の有無だけでなく、賠償の範囲の個別の判断の中でも考慮されうると考えられます。

瑕疵の有無は、所有者が傷みを知っていたかどうかではなく、建物の状態で判断されると考えられます。 民法第717条第1項には、所有者が傷みを知らなかったことで責任を免れる定めは置かれていません。傷みに気づいていたのであれば、倒れる前に直す機会があったことになります。

条文が所有者に求めている管理

建築基準法第8条第1項

建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。

空家法第5条

空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する空家等に関する施策に協力するよう努めなければならない。

出典:建築基準法(昭和25年法律第201号)第8条第1項、空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)第5条

努力義務と、市町村の措置

建築基準法第8条第1項と空家法第5条は、どちらも所有者に維持・管理に「努める」ことを求める定めです。 これに加えて空家法は、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態などにある空き家を「特定空家等」と定め(空家法第2条第2項)、空家法第22条で市町村長による助言・指導・勧告・命令の対象にしています。

空家法第2条第2項

この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。

出典:空家等対策の推進に関する特別措置法第2条第2項・第22条

行政の措置と賠償責任の関係

空家法の措置は、市町村が周りの生活環境を守るための手続きで、被害者への賠償を定めたものではありません。 賠償の責任は民法第717条で決まります。 ただし、市町村から指導や勧告を受けていた建物が倒れた場合、所有者は倒れる前に建物の状態を知らされていたことになります。 指導・勧告の流れは「特定空家等」とは何か。当たる4つの状態と、そのあとに起きることと管理不全空家の指導が来た。どう対応すればよいかにまとめています。

調査でわかる空き家の傷みと建築時期

腐朽・破損の状態割合
構造上の不具合が生じていた19.6%
住宅の外観または室内に全体的に腐朽・破損があった3.0%
住宅の外観または室内に部分的に腐朽・破損があった43.2%
構造上の不具合や腐朽・破損はなかった34.1%

出典:国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」図表4-53(総数)

国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」は、令和5年住宅・土地統計調査で現住居以外に空き家を所有していると回答した世帯から抽出した世帯を対象にした調査です。 空き家全体で「構造上の不具合が生じていた」のは19.6%で、建築時期が1950年以前の空き家では39.1%、2011年以降では約3%でした。 調査報告は、建設時期が古くなるほど腐朽・破損の程度が大きくなる傾向があるとしています(図表4-55)。

出典:国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」図表4-55

空き家の建築時期は「1971〜1980年」が26.4%、「1951〜1970年」が21.7%、「1950年以前」が15.1%で、調査報告は1980年以前を合わせると約6割としています(図表4-15)。 管理面の心配事として「地震、台風、豪雪などによる住宅の損壊・倒壊」を挙げた世帯は56.9%でした(図表4-61、複数回答)。

出典:国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」図表4-15・4-61

倒れる前にできること

外から見て確かめる箇所

建物の傾き、基礎のひび、外壁のはがれ、屋根の瓦のずれ、ブロック塀のひびや傾き、門や塀の控えの有無を、道路側から見て確かめます。 道路や隣地に面した塀と外壁は、倒れたり落ちたりしたときに人に当たる場所なので、先に見ます。 見回りの頻度と傷みの関係は空き家の管理は月に何回必要か。国の調査でわかる頻度と傷みの関係にまとめています。

傷みが見つかった場合

傾きや大きなひびが見つかった場合は、建築士や工務店に建物の状態を見てもらい、補修するか、取り壊すかを決めます。 耐震診断や改修、除却の費用を支援する制度があるかどうかは、建物のある市区町村の窓口で確かめられます。 取り壊しの費用と補助金の探し方は空き家の解体に補助金は出るのか。制度の探し方にまとめています。 直すまでのあいだは、塀や外壁の近くに人が寄らないよう、敷地への立ち入りを防ぐ手当てをしておきます。

調査結果のまとめ

空き家が地震で倒れて人に当たった場合、責任を問われるのは占有者、占有者が注意をしていれば所有者で、空き家では所有者が両方を兼ねていることが多いと考えられます。 責任の有無を分けるのは、揺れの大きさだけでなく、倒れる前の建物の設置又は保存の状態です。 道路や隣地に面した塀と外壁から順に状態を確かめ、傷みが見つかれば、直すか取り壊すかを決めることが、倒れる前に所有者ができることです。

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根拠にした資料
民法(明治29年法律第89号)第717条第1項・第3項
建築基準法(昭和25年法律第201号)第8条第1項
空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)第2条第2項・第5条・第22条
国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)第1章、図表4-15・4-53・4-55・4-61
調査の割合は不詳を除いて集計された値で、腐朽・破損の状態と建築時期は空き家の戸数について、心配事は空き家を所有する世帯について集計されています。条文は e-Gov 法令検索で確認した現行法です。