実家の相続で、
後から取り返しがつかなくなる3つのこと
後から
相続の場面で選べることの多くは、後から選び直せます。選び直しにくいのは次の3つです。兄弟の共有名義にすること、登記・名義変更を放置すること、用途を決めないまま持ち続けること。いずれも、戻すのに他人の同意か、費用か、その両方が要ります。条文と国の調査にあたって整理しました。
兄弟の共有名義にする
共有になると、できることが3段階に分かれる
民法は、共有物についてできることを3つに分けています。
| 行為 | 必要な同意 | 該当する例 |
|---|---|---|
| 変更(軽微でないもの) | 共有者全員の同意 | 売却、建て替え、取り壊し |
| 管理 | 持分の価格の過半数 | 賃貸に出す、用途を変える |
| 保存 | 各共有者が単独でできる | 雨漏りの修繕、不法占拠者への明渡し請求 |
民法第251条第1項は、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く)を加えるには他の共有者全員の同意を要すると定めています。 第252条第1項は、共有物の管理に関する事項は各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するとしています。 保存行為は各共有者が単独で行えます。
売ることと壊すことは、いずれも全員の同意が要ります。 兄弟の1人が反対すれば、他の全員が賛成していても進みません。
出典:民法(明治29年法律第89号)第251条、第252条。共有に関する規定の改正は令和5年4月1日施行
共有はどれくらいあり、何が起きているか
国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」では、空き家の所有者の数は1人(単独所有)が84.6%、 2人以上(共有)が14.0%でした。売却用の空き家に限ると共有は21.7%です。
同じ調査で、空き家として所有し続ける理由を聞いた項目には 「所有者が複数で合意が困難」が2.2%、「関係者が認知症などで意思決定できない」が0.6% という選択肢が並んでいます。割合は小さいものの、いずれも当事者だけでは解けない状態です。
出典:国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-31、図表4-130
共有を選ぶ場面は限られる
遺産分割の話し合いがまとまらないとき、いったん法定相続分どおりに共有としておく扱いがあります。 この状態は、売る・壊すという判断に全員の同意を必要とする状態です。 相続人が亡くなれば持分はさらに分かれ、同意を集める相手が増えていきます。
登記・名義変更を放置する
14.1%は、登記も名義変更もしていなかった
同調査は、所有者が分かっている空き家について、登記または名義変更の状況を尋ねています (相続登記が義務化された令和6年4月1日より前の、令和5年10月1日現在の状況)。
| 登記または名義変更の状況 | 割合 |
|---|---|
| 名義変更を行った | 64.2% |
| 新たに不動産登記を行った | 16.8% |
| わからない(覚えていない) | 4.9% |
| いずれも行っていない | 14.1% |
使用目的のない空き家に限ると、いずれも行っていないは17.6%に上がります。
出典:同調査 図表4-33、図表4-34
令和6年4月1日から、3年以内の申請が義務になった
不動産登記法第76条の2第1項により、相続によって不動産の所有権を取得した相続人は、 自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、 相続登記の申請をしなければならないこととされました。令和6年4月1日施行です。
正当な理由がないのに申請しない場合、10万円以下の過料の対象になります(同法第164条)。 施行日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は令和9年3月31日とされています。
出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2、第164条/法務省「相続登記の申請義務化について」
放置した理由の57%は「困らなかった」
登記・名義変更を行っていない世帯にその理由を聞いた結果は、 「登記や名義変更しなくても困らなかった」が56.8%と最も高く、 「手続きがわずらわしかった」が10.5%、「費用の負担感が大きかった」が6.8%でした。
費用や手間が理由の中心ではありません。困らなかったから、そのままになっています。 ただし前項のとおり、令和6年4月1日以降は困らないままにしておくことが義務違反にあたります。
出典:同調査 図表4-39
個別の判断は専門家に確認する必要があります
「正当な理由」に当たるかどうか、相続人申告登記で足りるかどうかは、事情によって異なります。 本記事は制度の説明であり、個別の事案についての判断ではありません。 実際の手続きは、司法書士または弁護士に確認する必要があります。
用途を決めないまま持ち続ける
3割は「空き家として所有しておく」
今後5年程度の利用意向を聞いた結果では、「空き家として所有しておく(物置としての所有を含む)」が31.7%で最も高く、 次いで売却する19.5%、別荘やセカンドハウスなどとして利用する19.1%、取り壊してさら地にする14.1%、賃貸する5.1%でした。
使用目的のない空き家に限ると、「所有しておく」は40.6%になります。
出典:同調査 図表4-111、図表4-112
所有し続ける理由の上位は、物置と解体費用
| 空き家として所有しておく理由(複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 物置として必要 | 55.8% |
| 解体費用をかけたくない | 47.3% |
| 住宅の古さ | 37.0% |
| さら地にしても使い道がない | 34.8% |
| 取り壊すと固定資産税が高くなる | 28.2% |
| どうすればよいか分からない | 13.8% |
出典:同調査 図表4-130
「取り壊すと固定資産税が高くなる」を理由に挙げた世帯が28.2%あります。 地方税法第349条の3の2は、住宅が建っている土地の課税標準を、小規模住宅用地(200㎡以下の部分)で価格の6分の1、 それを超える部分で3分の1と定めており、建物を取り壊すとこの特例が外れます。 取り壊しは戻せない判断であり、毎年の税負担も変わります。
出典:地方税法(昭和25年法律第226号)第349条の3の2。税額は評価額・税率・負担調整により変わる概算であり、市区町村の資産税担当課または税理士への確認が必要です
決めないまま持ち続けること自体は、選び直せる状態です。 ただし家は決めない間も傷みます。同調査では、空き家の19.6%に構造上の不具合、43.2%に部分的な腐朽・破損がありました。 「決めない」と「傷ませる」は別のことだと考えられます。
出典:同調査 図表4-53
調査結果のまとめ
- 共有物の変更(売却・取り壊し・建て替え)には共有者全員の同意、管理には持分の価格の過半数が要る(民法第251条第1項、第252条第1項)
- 空き家の14.0%が2人以上の共有。売却用に限ると21.7%(図表4-31)
- 令和6年4月1日施行の不動産登記法第76条の2により、相続登記は3年以内の申請が義務。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(同法第164条)。施行前の相続は令和9年3月31日が期限
- 義務化前の時点で、14.1%が登記も名義変更もしていなかった。理由の56.8%は「困らなかった」(図表4-33、図表4-39)
- 今後の意向は「空き家として所有しておく」が31.7%で最多。使用目的のない空き家では40.6%(図表4-111)
- 所有し続ける理由は物置55.8%、解体費用47.3%、取り壊すと固定資産税が高くなる28.2%(図表4-130)
- 空き家の19.6%に構造上の不具合、43.2%に部分的な腐朽・破損(図表4-53)
3つに共通するのは、後から戻すのに他人の同意か費用が要るという点です。 共有は同意、登記は期限、取り壊しは費用と税で、いずれも先に延ばすほど条件が悪くなると考えられます。
誰も住まないご実家を、毎月みまもります
貸すか、売るか、持ち続けるか。決めるまでの間も空き家は傷みます。
担当が月1回訪問して状況を確認し、写真つきの報告書でお送りします。月2,750円(税込)から、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県で承っています。
お申し込みはネットで完結します。所要3分ほどです。
根拠にした資料
国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)
租税特別措置法(昭和32年法律第26号)第35条第3項・第4項
地方税法(昭和25年法律第226号)第349条の3の2
不動産登記法(相続登記の申請の義務化。2024年4月1日施行)
借地借家法(平成3年法律第90号)
当社集計:全国585自治体の空き家バンク掲載情報 10,954件(2026年9月時点)
条文は2026年9月7日に e-Gov 法令検索で確認しました。税額と控除の可否は個々の事情で変わります。断定的な判断はしていません。実際の適用は、物件のある自治体の資産税担当または税理士にご確認ください。