海外赴任のあいだ、家をどうするか。
空き家管理と賃貸の比較
空き家管理と
分かれ目は家賃の額ではなく、帰任したときに戻れるかどうかです。通常の賃貸借契約で貸すと、貸主から契約を終わらせるには正当の事由が要ります(借地借家法第28条)。期間を区切るには定期建物賃貸借という方式がありますが、書面での契約と、あらかじめの説明という要件が付きます(同法第38条)。一方で空けたままにすると傷みが進みます。国の調査では、管理が年に1〜数回の空き家は構造上の不具合が24.3%でした。条文と統計にあたって、2つの道を同じ軸で比べました。
留守にする家の選択肢
転勤や赴任で空き家になる家の位置
国土交通省が2025年8月に公表した「令和6年空き家所有者実態調査結果」によると、 人が住まなくなった理由のうち転勤など(一時的不在)は3.7%でした。 調査時点の利用状況でも、転勤や入院などで一時的に不在中だったため物置として所有していた空き家は1.4%です。
出典:国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-43・図表4-91
数としては少数です。一方で、今後5年間程度のうちに所有者や親族が住む意向の世帯では、 住むきっかけとして転勤などから戻るが13.3%挙がっています。 家族構成の変化(子の独立など)が34.7%、高齢期の暮らし方の変化が32.0%に次ぐ順です。
出典:同調査 図表4-128
戻ることを前提にした空き家という使われ方が、調査にも表れています。 赴任中の家の扱いは、この前提を壊さずに済むかどうかで決まります。
戻れる順に並べ直す
留守にする家にできることは、大きく4つです。戻れるかどうかで並べると次のようになります。
| 選択肢 | 帰任時に戻れるか | お金の向き | 留守中の傷み |
|---|---|---|---|
| 売る | 戻れない | 入る(一度だけ) | 関係しなくなる |
| 普通借家で貸す | 正当の事由が要る | 入る(毎月) | 借り手が住んでいる |
| 定期借家で貸す | 期間の満了で終わる | 入る(毎月) | 借り手が住んでいる |
| 空けたまま管理する | いつでも戻れる | 出る(毎年) | 手の入れ方で変わる |
赴任の期間が読めない場合ほど、戻れるかどうかの欄が重くなります。 以下、貸す側と空けておく側を順に見ます。
普通借家で貸す場合の終わらせ方
更新しない旨の通知には期間の定めがある
期間を定めて建物を貸した場合、期間が来れば自動的に終わるわけではありません。
借地借家法第26条第1項
建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
出典:借地借家法(平成3年法律第90号)第26条第1項
通知をしなかったときは、同じ条件で更新したものとみなされ、しかも期間の定めがない契約になります。 通知を出せる窓は期間の満了の1年前から6か月前までです。 赴任先からこの窓を管理することになります。
正当の事由という要件
窓の中で通知を出しても、それだけでは終わりません。
借地借家法第28条
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
出典:同法第28条
条文が挙げているのは、双方が建物の使用を必要とする事情、従前の経過、利用状況、現況、 明渡しと引換えの財産上の給付の申出です。これらを考慮して正当の事由があると認められる場合でなければ、 通知も解約の申入れもできないという構造になっています。 帰任が決まったという事情が、これだけで正当の事由になると決まっているわけではありません。 判断は個別の事案によります。
期間の定めがない契約になった場合、貸主が解約を申し入れると、 建物の賃貸借は解約の申入れの日から6か月を経過することによって終了するとされています(同法第27条第1項)。 ここでも第28条の正当の事由が要ります。 また同法第30条は、この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは無効とすると定めています。 契約書に「帰任時に明け渡す」と書けば足りる、という造りにはなっていません。
出典:同法第27条第1項・第28条・第30条
貸している間の修繕も貸主の側に残ります。 民法第606条第1項は、賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負うと定めています (賃借人の責めに帰すべき事由による場合を除きます)。 給湯器や屋根の不具合は、赴任先にいる間も貸主の負担で直すことになります。
出典:民法(明治29年法律第89号)第606条第1項
定期建物賃貸借の要件
書面での契約と、あらかじめの説明
期間の満了で終わらせたい場合、借地借家法第38条が定める定期建物賃貸借という方式があります。 ただし要件が2段になっています。
借地借家法第38条第1項
期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
出典:借地借家法第38条第1項
1段目が書面によって契約することです。2段目は説明です。 同条第3項は、建物の賃貸人があらかじめ賃借人に対し、 契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならないとしています。 そして同条第5項は、この説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効とすると定めています。
出典:同条第3項・第5項
書面はあるが説明をしていない、という状態だと、更新のない契約という部分だけが外れます。 残るのは普通借家に近い形です。ここが定期借家でいちばん落ちやすい場所だと考えられます。
終了を伝える通知期間と、借主側の解約
期間が1年以上の定期建物賃貸借では、終了させるためにもう1つ手順があります。 同条第6項は、賃貸人が期間の満了の1年前から6か月前までの間に賃借人に対し 期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、 その終了を賃借人に対抗することができないとしています。 通知期間の経過後に通知した場合は、その通知の日から6か月を経過した後は対抗できるとされています。
逆に、借主の側から早く終わる場合もあります。
借地借家法第38条第7項
第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
出典:同条第6項・第7項
床面積200平方メートル未満の居住用の建物では、借り手の側も転勤などを理由に解約を申し入れられます。 申入れの日から1か月で終了します。同条第8項は、第6項と第7項の規定に反する特約で賃借人に不利なものを無効としています。 期間を区切ったからといって、その期間だけ収入が続くと決まっているわけではありません。
空けたまま管理する場合に進む傷み
管理の頻度と、構造上の不具合
貸さずに空けておく場合、留守中の手の入れ方が家の状態に表れます。 調査は、管理の頻度別に腐朽・破損の状態を集計しています。
| 管理の頻度 | 構造上の不具合が生じていた割合 |
|---|---|
| ほぼ毎日 | 15.3% |
| 週に1〜数回 | 16.3% |
| 月に1〜数回 | 17.5% |
| 年に1〜数回 | 24.3% |
| 数年に1回 | 33.3% |
出典:同調査 図表4-58
月に1回以上の区分では15〜18%の範囲に収まり、年に1〜数回で24.3%、数年に1回で33.3%に上がります。 これは相関であって因果ではありません。 手を入れていない家ほど傷んでいるという対応関係が出ている、という読み方になります。
距離が延びると、頻度が下がる
調査は所有者の居住地からの所要時間でも集計しています。 最も遠い区分は「車・電車などで3時間超」です。
| 所要時間 | ほぼ毎日 | 年に1〜数回 |
|---|---|---|
| 徒歩圏内 | 31.6% | 17.4% |
| 車・電車などで1時間以内 | 12.7% | 25.1% |
| 車・電車などで1時間超〜3時間以内 | 3.8% | 44.7% |
| 車・電車などで3時間超 | 6.1% | 53.9% |
出典:同調査 図表4-73
国外に住んでいる間は、この最も遠い区分よりさらに往訪が難しくなると考えられます。 管理をする上での課題でも、遠方に住んでいるので往訪が困難が21.6%挙がっています。 管理面での心配事は、住宅の腐朽・破損の進行が75.7%、樹木・雑草の繁茂が58.0%、 不審者の侵入や放火が51.7%でした。
出典:同調査 図表4-61・図表4-79(いずれも複数回答)
留守中に行われている作業の中身は、 外回りの清掃・草取り・剪定などが79.5%、戸締まりの確認が74.9%、 住宅の通風・換気が66.9%、郵便物・チラシなどの整理・処分が57.0%です。 現地に行かずに済ませられるものは、この中にほとんどありません。 1年放置した家の中で起きることは 空き家を1年放置すると、家の中で何が起きるかにまとめています。
出典:同調査 図表4-65(複数回答)
2つを同じ軸で並べる
調査に出ている年間の維持管理費用
空けたまま持つ場合の費用は、調査に分布が出ています。
| 年間の維持管理に要する費用 | 割合 |
|---|---|
| 費用はかかっていない | 12.1% |
| 1万円未満 | 10.6% |
| 1〜3万円未満 | 14.1% |
| 3〜5万円未満 | 11.0% |
| 5〜10万円未満 | 15.6% |
| 10〜20万円未満 | 16.7% |
| 20〜30万円未満 | 8.5% |
| 30万円以上 | 8.5% |
出典:同調査 図表4-74。不明が2.9%あります。この費用には管理委託料のほか、電話・ガス・水道等の契約費用、空き家までの交通費、税金などが含まれます。
最も多い区分は10〜20万円未満で16.7%、5万円未満を合わせると約5割です。 空けたまま持つことは、無料ではありません。
2つの道を、同じ項目で比べる
| 空けたまま管理する | 普通借家で貸す | 定期借家で貸す | |
|---|---|---|---|
| 帰任時に戻せるか | いつでも戻れる | 正当の事由が要る | 期間の満了で終わる |
| 終わらせる手続き | なし | 1年前から6か月前までの通知 | 書面・事前説明・1年前から6か月前までの通知 |
| 途中で崩れる場面 | 管理が途切れる | 正当の事由が認められない | 説明を欠くと更新なしの定めが無効 |
| お金の向き | 出る(毎年) | 入る(毎月) | 入る(毎月) |
| 修繕の負担 | 自分の判断で決める | 貸主に修繕義務 | 貸主に修繕義務 |
| 留守中の傷み | 頻度で変わる | 借り手が住んでいる | 借り手が住んでいる |
帰任の時期が読めないほど、空けたまま管理する側が選ばれやすくなると考えられます。 逆に赴任期間がはっきりしているなら、定期建物賃貸借が候補に入ります。 その場合は書面と事前の説明という2つの要件を、契約の場で確かめることになります。
当社は、月1回の訪問と写真つき報告書で月2,750円(税込)から、 東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の空き家を承っています。 築年数と賃料の関係は 築50年の空き家は賃貸に出せるのか、 売る・貸す・持ち続けるの比較は 相続した実家を、売る・貸す・持ち続ける。何を基準に決めるかにまとめています。
調査結果のまとめ
- 期間の満了の1年前から6か月前までの間に更新をしない旨の通知をしないと、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされます(借地借家法第26条第1項)。しかもその期間は定めがないものとされます
- 貸主からの通知と解約の申入れには、正当の事由が要ります(同法第28条)。条文が考慮するとしているのは、双方が建物の使用を必要とする事情、従前の経過、利用状況、現況、明渡しと引換えの財産上の給付の申出です
- 賃借人に不利な特約は無効とされています(同法第30条)
- 定期建物賃貸借は、書面によって契約するときに限り、更新がないこととする旨を定められます(同法第38条第1項)。あらかじめ書面を交付して説明しなかったときは、その定めは無効です(同条第3項・第5項)
- 期間が1年以上のときは、1年前から6か月前までの間に終了の通知をしないと終了を対抗できません(同条第6項)。床面積200平方メートル未満の居住用建物では、借主も転勤などを理由に解約を申し入れられ、1か月で終了します(同条第7項)
- 貸している間、賃貸人は使用及び収益に必要な修繕をする義務を負います(民法第606条第1項)
- 空けておく場合、構造上の不具合が生じていた割合は年に1〜数回の管理で24.3%、数年に1回で33.3%でした(図表4-58)。月に1回以上では15〜18%です
- 所要時間が車・電車などで3時間超の世帯では、管理の頻度が年に1〜数回が53.9%、ほぼ毎日は6.1%でした(図表4-73)
- 年間の維持管理費用は10〜20万円未満が16.7%で最多、5万円未満を合わせると約5割です(図表4-74)
赴任中の家は、戻れるかどうかを最初の軸に置くと決めやすくなります。 契約の内容と正当の事由の判断は事案によって変わるため、 貸す場合は宅地建物取引業者または弁護士にご確認ください。
誰も住まないご実家を、毎月みまもります
貸すか、売るか、持ち続けるか。決めるまでの間も空き家は傷みます。
担当が月1回訪問して状況を確認し、写真つきの報告書でお送りします。月2,750円(税込)から、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県で承っています。
お申し込みはネットで完結します。所要3分ほどです。
根拠にした資料
国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-43・図表4-58・図表4-61・図表4-65・図表4-73・図表4-74・図表4-79・図表4-91・図表4-128
借地借家法(平成3年法律第90号)第26条・第27条・第28条・第30条・第38条
民法(明治29年法律第89号)第606条
当社の空き家管理サービスの料金(月2,750円・税込から。2026年9月時点)
条文は2026年9月20日に e-Gov 法令検索で確認しました。正当の事由が認められるかどうかは個別の事案によって判断されます。本記事は条文と統計の説明であり、個別の契約についての判断ではありません。契約の内容は、宅地建物取引業者または弁護士にご確認ください。