相続登記の義務化。
3年以内に何をすればよいのか
3年以内に
することは2つのうちどちらかです。所有権の移転の登記を申請するか、間に合わないときは相続人である旨の申出をするか。不動産登記法第76条の2第1項は期限を「知った日から三年以内」と定め、第164条第1項は正当な理由なく怠った場合に10万円以下の過料と定めています。義務は施行日より前に起きた相続にも及びます。条文と改正法の附則にあたって、順番に整理しました。
何がいつから義務になったのか
令和6年4月1日から
相続登記の申請は、令和6年4月1日から義務になりました。 国土交通省が令和7年8月に公表した令和6年空き家所有者実態調査結果も、 登記に関する設問について「相続登記が義務化された令和6年4月1日以前である 令和5年10月1日現在の状況を尋ねている」と注記しています。
出典:国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)第4章の注記
義務の中身を定めているのは不動産登記法です。 それまで相続登記は「したほうがよいもの」でしたが、 期限と、怠ったときの過料が条文に書かれました。
起算日は「知った日」
不動産登記法第76条の2第1項は、次のとおり定めています。
不動産登記法第76条の2第1項
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、 自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から 三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2第1項
起算日は亡くなった日ではありません。条文は2つのことを知った日、 すなわち相続が始まったことを知り、かつ、その不動産を取得したことを知った日としています。 遺言が後から見つかった場合など、この2つの時点がずれることがあります。 自分の場合にいつから数えるのかは、法務局または司法書士にご確認ください。
施行日より前に起きた相続も対象になる
経過措置が定めていること
「うちの相続は10年前だから関係ない」とはなりません。 この点は不動産登記法の本則ではなく、改正法である 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)の附則に書かれています。
民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第6項
第二号新不動産登記法第七十六条の二の規定は、第二号施行日前に所有権の登記名義人について 相続の開始があった場合についても、適用する。この場合において、同条第一項中 「所有権の登記名義人」とあるのは「民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号) 附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日(以下この条において「第二号施行日」という。)前に 所有権の登記名義人」と、「知った日」とあるのは「知った日又は第二号施行日のいずれか遅い日」と、 同条第二項中「分割の日」とあるのは「分割の日又は第二号施行日のいずれか遅い日」とする。
出典:民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第6項。e-Gov 法令検索の不動産登記法に収録されている附則を2026年9月11日に確認しました。
「いずれか遅い日」の読み方
読み替えの部分が要点です。施行日より前に相続が起きていた場合、期限を数え始めるのは 「知った日」と「施行日」のうち、遅いほうの日になります。
| 相続が起きた時期 | 3年を数え始める日 |
|---|---|
| 施行日より後 | 相続の開始と所有権の取得を知った日 |
| 施行日より前 | 知った日と施行日のうち、遅いほうの日 |
出典:不動産登記法第76条の2第1項および民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第6項。具体的な期限の日付は、法務局または司法書士にご確認ください。
施行日より前に相続が起きていて、その時点で取得を知っていたのであれば、 数え始める日は施行日になります。 昔の相続がそのままになっている家ほど、この読み替えの影響を受けます。
遺産分割のあとに、もう一度3年
法定相続分で登記したあとに分割した場合
期限は1回では終わらないことがあります。不動産登記法第76条の2第2項は次のとおりです。
不動産登記法第76条の2第2項
前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じて されたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、 当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から 三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2第2項
いったん法定相続分どおりに登記しておき、あとから話し合いで分け方を決めた場合は、 分割の日から3年以内に、もう一度登記の申請が必要になります。 1回目を済ませたことで終わりにはなりません。
申出をした人が、あとで分割した場合
次の章で扱う相続人である旨の申出をした人にも、同じ形の期限があります。 同法第76条の3第4項は、申出をした者がその後の遺産の分割によって所有権を取得したときは、 当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないと定めています。
出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の3第4項
申出は期限を止める手段であって、期限をなくす手段ではありません。 分割がまとまった時点で、新しい3年が始まります。
怠ったときに何が起きるか
10万円以下の過料
不動産登記法第164条第1項は、申請を怠った場合の扱いを定めています。 条文は複数の義務をまとめて挙げていますが、 そのなかに第76条の2第1項・第2項と、第76条の3第4項が含まれています。
不動産登記法第164条第2項
第七十六条の五の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を 怠ったときは、五万円以下の過料に処する。
出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第164条。相続登記の申請を怠った場合は同条第1項の10万円以下、氏名・住所の変更の登記を怠った場合は同条第2項の5万円以下と、金額が分かれています。
相続登記の側は10万円以下の過料です。 過料は刑罰ではなく、前科が付くものではありません。 とはいえ金銭の負担が生じる定めであることに変わりはありません。
「正当な理由がないのに」という条件
条文には「正当な理由がないのにその申請を怠ったとき」という限定が付いています。 期限を過ぎたことだけで自動的に過料になる書き方にはなっていません。
何が正当な理由にあたるかは条文に列挙されておらず、 この記事で線を引くことはできません。 期限に間に合わない事情があるときは、その事情を持って法務局に相談することをおすすめします。
3年以内に登記できないときの手段
相続人である旨の申出
遺産分割がまとまらない、相続人の一部と連絡が取れない、といった事情はあります。 そのために用意されているのが、不動産登記法第76条の3第1項の申出です。
不動産登記法第76条の3第1項
前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、 登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の 相続人である旨を申し出ることができる。
出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の3第1項
同条第2項は、第76条の2第1項の期間内にこの申出をした者について、 所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなすと定めています。 申出をしておけば、その分については過料の対象から外れることになります。
申出だけでは所有権は移らない
条文の言葉は「申請」ではなく「申し出ることができる」です。 申出を受けた登記官は、同条第3項により、 その旨と申出をした者の氏名・住所などを職権で所有権の登記に付記することができるとされています。
出典:不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の3第2項・第3項
付記されるのは「この人が相続人である」という情報であって、 所有権がその人に移ったことを示すものではありません。 売る・貸す・担保に入れるといった場面では、通常の相続登記が必要になると考えられます。 申出は期限への対応であって、名義を整える作業そのものではありません。
実際にどれくらい登記されていないか
いずれも行っていない世帯は14.1%
国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査によると、所有者が分かっている空き家について、 「名義変更を行った」が64.2%、「新たに不動産登記を行った」が16.8%で、 登記と名義変更の「いずれも行っていない」は14.1%でした。 取得方法別にみると、相続で取得した世帯では13.1%です。
出典:国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-33・図表4-36。この設問は令和6年4月1日より前の、令和5年10月1日時点の状況を尋ねたものです。
所有者の数別では差が出ています。2人以上(共有)の空き家では 「いずれも行っていない」が23.8%で、1人(単独所有)の12.5%を上回りました。
出典:同調査 図表4-38
理由の56.8%は「困らなかった」
登記も名義変更もしていない世帯にその理由を尋ねた結果は、次のとおりです。
| 登記または名義変更をしない理由 | 割合 |
|---|---|
| 登記や名義変更しなくても困らなかった | 56.8% |
| 手続きがわずらわしかった | 10.5% |
| 費用の負担感が大きかった | 6.8% |
| その他 | 25.9% |
出典:国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-39。対象は登記または名義変更を行っていない170千世帯。
いちばん多いのは費用でも手間でもなく、「困らなかった」です。 困らないから動かない、という状態に対して、期限と過料が置かれたのが今回の改正だと整理できます。 困っていないことは、そのままでよい理由ではなくなりました。
調査結果のまとめ
- 期限は、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内です(不動産登記法第76条の2第1項)
- 施行日より前に起きた相続も対象で、数え始めるのは「知った日」と「施行日」のうち遅いほうの日です(民法等の一部を改正する法律・令和3年法律第24号 附則第5条第6項)
- 法定相続分で登記したあとに遺産分割をしたら、分割の日から3年以内にもう一度申請が要ります(不動産登記法第76条の2第2項)
- 正当な理由がないのに怠ると10万円以下の過料です(同法第164条第1項)。氏名・住所の変更の登記は5万円以下(同条第2項)
- 間に合わないときは、相続人である旨の申出で義務を履行したものとみなされます(同法第76条の3第1項・第2項)
- 申出は所有権が移ったことを示すものではありません。登記官が職権で付記するのは相続人である旨です(同条第3項)
- 申出のあとに分割がまとまれば、その日から3年が始まります(同条第4項)
- 調査では登記と名義変更の「いずれも行っていない」が14.1%、共有では23.8%。理由の56.8%は「困らなかった」でした
やることは多くありません。登記を申請するか、申出をするかのどちらかです。 迷っている間に期限が進むので、まず自分の場合の起算日を法務局で確かめるところから始めることをおすすめします。
誰も住まないご実家を、毎月みまもります
貸すか、売るか、持ち続けるか。決めるまでの間も空き家は傷みます。
担当が月1回訪問して状況を確認し、写真つきの報告書でお送りします。月2,750円(税込)から、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県で承っています。
お申し込みはネットで完結します。所要3分ほどです。
根拠にした資料
不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の2・第76条の3・第164条
民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条第6項
国土交通省住宅局「令和6年空き家所有者実態調査結果」(令和7年8月)図表4-33・図表4-36・図表4-38・図表4-39
条文と附則は2026年9月11日に e-Gov 法令検索で確認しました。起算日がいつになるか、正当な理由にあたるかどうかは個々の事情で変わるため、この記事では条文の定めを示すにとどめています。具体的な期限と手続きは、不動産の所在地を管轄する法務局または司法書士にご確認ください。